2015年来、ブロックチェーンはFinTech(金融とテクノロジーの融合領域)の文脈のみならず、そこを飛び越えた領域でも、インターネット革命と近いレベルの「ディスラプティブ(破壊的)」な技術と喧伝されている。世界的な金融機関やITベンダーを中心に、多くの企業や各国政府が参画して、ブロックチェーンの活用に向けた活発な研究や実証が始まっているのは事実だ。

 一方で、現状のブロックチェーン技術の成熟度には疑問の声も多い。インターネットでいえば1980年代後半の黎明期の水準に過ぎないという指摘もある。

 2016年6月18日(日本時間)にはブロックチェーン関係者を震撼させる事件も起きた。ブロックチェーンプラットフォーム「Ethereum(イーサリアム)」上に構築された事業投資ファンド「The DAO(Decentralized Autonomous Organization)」がサイバー攻撃を受けファンドの仮想通貨が流出したのだ。The DAOは、イーサリアム上のプログラムコードに基づく自律分散的な投資ファンド。今回はThe DAOのコードの脆弱性が攻撃に利用された。The DAOの一件は、その後のイーサリアムコミュニティの対応も含め、ブロックチェーン技術の現状と課題を、改めて整理して見直す契機になった。

 そこで本連載では、暗号とその応用技術の設計と運用に長年関わってきた研究者と技術者によるリレー形式で、ブロックチェーン技術の現状、活用に向けた課題と解決の方向性を、国内外の動向を交えながら解説する。

 なお、本連載の目的は、ブロックチェーンという、将来の社会活動の基盤となるであろう有望な技術に対して、技術の特性に合ったより良い活用を考えるための材料を提供することにある。

 まず連載の初回で、ブロックチェーンの現状に対して問題提起しながら、全体像を説明する。その後4回ほどをかけて、ブロックチェーンの基本的な知識と応用例を解説する。そして残りの6回で、問題提起した課題と、現在取り組まれている課題解決の方向性について説明する。