本連載ではこれまで、ブロックチェーンが技術的に実現したことの意味と、ブロックチェーンを構成する各技術に内在する課題を解説してきた。

 ブロックチェーンのコンセプトを改めてまとめると、「信頼できる運営者を置かない非中央集権なトラストモデル」において、「権利や価値などの状態を記録」し、「契約や取引などを実行する」基盤である。

 こうしたブロックチェーンの技術的思想とコンセプトは、インターネットが通信の主体を“信頼できる運営者”から解放したように、経済的活動や社会的活動において信頼できる運営者の存在を仮定しなくてよい世界を目指すものだ。

 一方で、これまでの連載記事が示すように、現在も運用中のビットコインですら、その技術的思想が完全に実現できているわけではない。

 ビットコインの基盤技術をブロックチェーンとして取り出し、より幅広い分野に応用しようとすれば、新たな応用に必要な技術要件に比して、現状のブロックチェーン技術は非力だと言わざるを得ない。

 世界の先端のブロックチェーン技術者、研究者は、その根本的課題の解決に動き始めている。さらに、社会基盤として利用されるために欠かせない標準化の動きも始まっている。今回は、ブロックチェーンの成熟に向けて世界のプレーヤーがどのように動いているか、その状況を紹介しよう。

改めて、現在のブロックチェーンの成熟度を考える

 これまでの連載では、主にはビットコインの技術を中心に、本来の技術思想上のゴールに照らし合わせた場合のブロックチェーン技術の課題を、様々な角度で紹介してきた。

 こうした課題の背景にあるブロックチェーン技術の特徴として特に興味深く、一方で難しいのは、ブロックチェーンの様々な仕様と性質がトレードオフの関係にあり、すべての性質を向上させることは簡単ではない、という点だ。

 ブロックチェーンの非中央集権性という性質は、偏りのない多数のノードによって実現され、ノードの数が多いほど、非中央集権性は強化される。

 一方で、ノードを多くするには、ノードにおいてデータを記録するストレージに必要な費用を下げる必要があり(そうでないと金持ちだけがノードを運営できることになる)、必然的にブロックサイズを小さくする必要がある。

 また、ノードが多ければ「合意」(ブロックチェーンにおける「合意」の定義は定まっていないが)に必要な処理は増える。その結果として、スケーラビリティと性能は失われる。セキュリティやプライバシーを向上させれば、その分性能や使い勝手は悪くなり、利用者の手間や責任が増える。手間や責任が増えればノード数が減り、非中央集権性が失われる。

 このようなトレードオフは、ブロックチェーン技術の適用範囲を拡げるうえで、避けられない点である。仮に、ビットコインよりも高速に動くブロックチェーン技術が存在するとすれば、代わりに他の何か重要な性質を犠牲にしている可能性が高い。

 このような技術的制約に関する知識をベースにして考えると、楠氏の記事で示したように、スケーラビリティの問題は簡単に解決しない。