出版社の宝島社が、デジタル戦略に頼らずに新しい収益源の確立に挑んでいる。編集者の目利き力こそが出版社にとって最大の財産だと考え、生活雑貨のブランドを自らプロデュース。外部メーカーにライセンス提供し、様々な商品を世に送り出すことに挑戦している。

付録作りで培った経験をブランドに生かす

写真●kippis事業はテキスタイルと呼ばれるプリントパターンのカタログを作り上げ、商品を作ってくれるファッションブランドやメーカーにライセンス供与するというものだ
写真●kippis事業はテキスタイルと呼ばれるプリントパターンのカタログを作り上げ、商品を作ってくれるファッションブランドやメーカーにライセンス供与するというものだ
写真●kippis事業はテキスタイルと呼ばれるプリントパターンのカタログを作り上げ、商品を作ってくれるファッションブランドやメーカーにライセンス供与するというものだ
(出所:宝島社)

 「雑誌を作るように、生活雑貨ブランドをコンテンツの一つとして作り上げたい。目利き力のある編集者たちだからこそ、独特の世界観を提案できるし、市場でも十分勝負できる。そう考えた」。マーケティング課の桜田圭子課長は、2015年10月にライセンス事業に参入した理由をこう明かす。

 宝島社は、ファッション雑誌としていち早く豪華な付録を雑誌に付けたことで知られる。戦略は当たり、同社の雑誌の人気は上昇。競合他誌も巻き込み、付録のアイデアを競い合う雑誌の新しいトレンドを生み出した。先行が奏功し、現在ファッション雑誌分野で出版社別シェアはトップ(23%、2015年下半期)。上位20誌のうち7誌が宝島社発で、1位の「sweet」は唯一月間平均販売部数が20万部を超えている。

 ライセンス事業に乗り出すきっかけは、2015年4月にマーケティング課を設置したことだった。同社は2007年から「マーケティング会議」を定例で開催。全社の部門責任者が集まり、売れる雑誌戦略を議論する場として有効に機能してきた。マーケティング課は「出版マーケティング」の考えを一歩前進させ、専門組織によって新しい収益源の開拓に本格的に乗り出したことを意味する。

 武器は、各雑誌で付録を開発する過程で人気ファッションブランドなどと協業し、編集者たちが培ったモノ作りに対する目利き力だ。「取材を通じて優れたデザイナーを発掘する力を養い、どうすれば読者の心を鷲づかみにして“買いたくなる商品”に仕立てられるかのツボも学んだ」(桜田課長)。

 第1弾として立ち上げたブランドが「kippis(キッピス)」だ。フィンランド語で「乾杯」を意味する、北欧をイメージした生活雑貨ブランドである。編集者はフィンランド在住の実力派デザイナー数名を口説き落とし、テキスタイルと呼ばれるプリントパターンを開発。kippis独自のカタログを作り上げた。

写真●事業を統括するマーケティング課の桜田圭子課長
写真●事業を統括するマーケティング課の桜田圭子課長
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 このカタログをファッションブランドやメーカーに持ち込み、ライセンス供与の形で商品の企画を促す。これまでにハンカチやスカーフ、タオルなどを幅広く手掛ける川辺や、手芸・クラフト用品のサンヒットなどと契約。エプロンやトレー、トートバッグ、レインコートなど多様な商品を世に送り出している。

 人気の高まりは著名バッグブランドも動かした。日本でもファンが多い米国の「レスポートサック」は4月、kippisとコラボレーションした限定ラインアップを発売した。6月には百貨店であるジェイアール京都伊勢丹がkippisブランドの商品群を一堂に並べた期間限定ショップをオープンさせている。「雑誌社が立ち上げたブランドが面白いと関心を持っていた。明るくて温かみがあるテキスタイルはかわいく、今回オファーすることを決めた」(ジェイアール京都伊勢丹)という。