米国大手メディアグループ傘下の出版社ハースト婦人画報社が、攻めの姿勢でデジタルコンテンツの強化にまい進している。世界共通仕様のウェブコンテンツ管理システム(CMS)を導入。編集者が世界中の記事のヒット傾向を日々確認しながら、リアルタイムにコンテンツを発信しやすくした。デジタル時代における最先端の出版社への脱皮を目指す。

編集者よ、コンテンツ発信のリズムを変えよ

ハースト婦人画報社のイヴ・ブゴン代表取締役社長&CEO(最高経営責任者)
ハースト婦人画報社のイヴ・ブゴン代表取締役社長&CEO(最高経営責任者)
[画像のクリックで拡大表示]

 「劇的に市場環境が変わりつつある出版業界で生き残るには、次の5年が勝負の山場。裏を返せば、チャンスも大きいと踏んでいる」。ハースト婦人画報社のイヴ・ブゴン代表取締役社長&CEO(最高経営責任者)は、現在は思い切って斬新なデジタル事業を立ち上げる好機ととらえる。

 2006年にアシェット婦人画報社の社長に就任した同氏。2011年に米ハースト・グループ傘下入りしてからも、日本市場の慣習と向き合いながら経営を舵取りしてきた。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やネット広告の最新動向を踏まえたデジタル戦略を早くから展開。一方で紙は紙で“らしさ”を追求した大胆な雑誌の紙面作りを試みてきた。

 「消費者の間にスマートフォン(スマホ)が行き渡った今、すべての編集者がコンテンツ発信のリズムを変えるべき時代がやってきた」(ブゴン社長)。24時間365日メディアは消費者と1対1の関係で寄り添い、パーソナライズ化した情報発信を心がけなければダメ――。そう、社内で日々発破をかけている。

 ブゴン社長が改革の急先鋒として立ち上げた新媒体がある。1月に日本で10年ぶりに復活した女性ファッションメディア「コスモポリタン」がそれだ。1980~2000年ごろに生まれた「ミレニアル世代」と呼ばれる若者たちを狙い撃ちにしており、全世界79カ国で展開する人気メディアだ。以前は雑誌の形で別会社が国内展開していたが、今回は海外と同じ世界観を日本に持ち込むウェブ雑誌として創刊した。

 発信のリズムを変えるためにこだわったのは、編集体制とそれを支えるシステム環境だ。「編集長が絶対的な権限を持つ従来型の出版社の組織ではなく、フラットな組織を作りたかった」。ブゴン社長は狙いをこう語る。

 編集長の白重絢子氏を含む編集部員3名は、あえて社外から呼び寄せた。全員が20~30代で、読者と同じミレニアル世代を熟知する人物に狙いを定めて採用した。ネットメディア出身でSNSの特性を踏まえたヒットコンテンツ作りに長けた人物ばかりだ。

写真●世界9カ国35のメディアが採用するウェブコンテンツ管理システム(CMS)「MediaOS」。ハースト・グループが独自に開発した。
写真●世界9カ国35のメディアが採用するウェブコンテンツ管理システム(CMS)「MediaOS」。ハースト・グループが独自に開発した。
(出所:ハースト婦人画報社)
[画像のクリックで拡大表示]
 白重編集長は「3人の中で私が一番“偉い”とはつゆほども思っていない。3人が同等の立場で互いの強みを持ち寄り、対等に間違っていたら指摘しあえるような編集部を作り上げた」と言ってはばからない。「ウェブ雑誌の世界では、一番偉いのは読者。編集者が彼ら彼女らの下に常に立ち、謙虚に学ぶ姿勢が欠かせない」と考えている。

 フラットな組織の中でコスモポリタン編集部の部員たちは、ツイッターやフェイスブック、インスタグラムといったSNSを駆使し、読者の発信に耳を傾け続ける。どう行動し、どう流行が起こっているのか解釈するためだ。「編集者の仕事はコンテンツを作って終わりではない。読者のタイムラインで目にとまるように流通させることを考えて実際に行動するのも大切な仕事」(白重編集長)。