バーチャルリアリティ(VR)技術を使って、現場の業務を変えようとする動きが拡大し始めた。建設現場の施工管理や設備保守、医療といった様々な分野での業務利用が始まっている。

 本特集の第1回、第2回では、VRの定義や歴史について紹介する。第3回では医療現場における先進事例を取り上げる。第4回ではVRとも共通点のあるIoT(Internet of Things)でのデジタルツインの取り組みについて紹介する。

 第1回と第2回では、30年間にわたってVRの研究を進めてきた、日本バーチャルリアリティ学会の会長を務める筑波大学 システム情報系知能機能工学域 エンパワーメント情報学プログラム 学位プログラムリーダー 教授の岩田洋夫氏にVRの定義や歴史について聞いた(写真1)。

(聞き手は岡田 薫=日経コンピュータ


写真1●日本バーチャルリアリティ学会 会長 岩田洋夫 氏 
写真1●日本バーチャルリアリティ学会 会長 岩田洋夫 氏 
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VRの定義を教えてください。

 バーチャルリアリティの定義は「物理的には存在しないものを、感覚的には本物と同等の本質を感じさせる技術」です。

 現実には無いものを、人間が体感できるように表現する技術のことです。

日本語では「バーチャルリアリティ」を「仮想現実」と訳す場合が多いです。

 そうですね。ただ実は、「バーチャル」は「仮想」ではありません。バーチャルは「本物と同等の本質を持つ」といった意味です。

 日本語では、「バーチャル」に対応する、適切な言葉が無い。だから「仮想」という言葉をあてはめたのでしょう。

2016年は「VR元年」と表現されるほど、VRへの期待は高まっています。

 確かに、VR元年と言ってもよいでしょう。VR自体は新しいものではありません。VRの歴史は古く、1960年代までさかのぼれます。

 しかし、一般の消費者がVRを身近に感じるようになったのは、最近のことです。例えば、スマートフォンと段ボールを組み合わせる「ハコスコ」、「Google Cardboard」のような製品が大量に流通し始めた。誰でもVRを体験できるようになったのです。

写真2●米オキュラス VRのオキュラスリフト
写真2●米オキュラス VRのオキュラスリフト
(画像提供:岩田 洋夫)
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 加えて、米オキュラス VRのようなベンチャーも現れました。同社は既に、米フェイスブックが買収しています。ソニーもプレイステーション VRを発表しています。大企業が、ビジネスとして競争を始める市場になりました。