IT戦略は当然、経営戦略とリンクしていなければならない。だからこそ、この特集の第2回で言及したように、CIO(最高情報責任者)は経営戦略をIT戦略に翻訳する必要がある。だが、それ以前の問題として、日本企業の経営戦略の策定には大きな欠陥をはらんでいる。その欠陥に経営者が気付いていないために、実行できない経営戦略が日本企業ではまかり通ってしまっているのだ。

 「パワーポインターズ」と私がひそかに名付けている人たちがいる。言うまでもなく、Microsoft OfficeのプレゼンテーションソフトPowerPointをもじったネーミングだ。このパワーポインターズたちは経営企画の人であったり、外部のコンサルタントであったりするのだが、誰もかれもPowerPointを使って、経営戦略についてプレゼンテーションをするのが大好きな人たちである。

 私が知る中でも、PowerPointのスライドを4〜5枚作って経営戦略を語るのが仕事だと思っているような人が何人もいる。まさにパワーポインターズである。その内容も「経営環境、事業環境がああだから、こうすべし、以上」といった経営戦略とは言いがたい薄っぺらな内容のものである。

 実は、こうしたパワーポインターズは、経営戦略のうち「Why(なぜ)」と「What(何を)」しか語っておらず、「How(どのように)」が全くお留守なのだ。Whyとは「経営環境、事業環境がああだから」であり、Whatとは「こうすべし」である。では、それをどのように実行するのか(How)になると、パワーポインターズは沈黙してしまう。しかも、多くの経営者もそれを是としてしまうから、戦略の実行段階で大きな問題が生じてしまうのだ()。

図●経営者にCIOが言うべき5つのこと(その4)
図●経営者にCIOが言うべき5つのこと(その4)

 もちろん経営者もHowを全く軽視しているわけではない。しかし、WhyとWhatを考えるのが経営の仕事であり、Howは現場が担うべきことなどと、考える人(経営)と実行する人(現場)に階層を分けて考えてしまうのだ。言い方を変えれば、Howは「戦術」とも言える。しかし経営者、特にCOO(最高執行責任者)が、どのように〝執行する〞のかというHow、あるいは戦術までを検討しないならば、経営戦略は実行性を持ち得ないのは明らかである。