経営者が「ITを分からない」というのも困ったことだが、反対にITに対する過度な期待も大きな問題をはらむ。

 CIO(最高情報責任者)やIT担当者なら誰もが認識していることだが、昔からITのテクノロジーやソフトウエアパッケージなどは常に不完全なものだ。しかし、ITベンダーやコンサルタントなどからIoT(Internet of Things)やAI(人工知能)の可能性を吹き込まれた経営者や事業部門の担当役員は、ITに過度な期待を抱いてしまう。これが後に大きな問題を引き起こす()。

図●経営者にCIOが言うべき5 つのこと(その3)
図●経営者にCIOが言うべき5 つのこと(その3)

 このITの不完全さにも色々とある。最近でも、ITベンダーの製品のソフトウエアに潜むバグが顕在化し、航空会社のシステムがダウンし、多くの便が欠航したり遅延したりするトラブルが発生した。ITに詳しくない人には理不尽にも聞こえるが、ソフトウエアのバグは完全には防ぎようがなく、システムは障害発生のリスクに包含している。そうした不完全さを知るIT担当者は、それを前提に最悪の事態を避けるべく、日々奮闘しているわけだ。

 さらに、ソフトウエアパッケージには喧伝されている機能や性能が伴っていないケースもある。その代表例と言えるのが、前回に経営のツールとして紹介したERP(統合基幹業務システム)だ。はっきり言って、外資系ITベンダーのERPが日本で最初に紹介された時には、その出来はほめられたものではなかった。

 「欧米企業のベストプラクティスが詰まっている」と喧伝されたが、「ベストプラクティスだって? ふざけるな!」と思ったIT担当者も大勢いたことだろう。

 それは欧米の企業にとっても同じだった。だが、欧米企業は当時のERPの不完全さを踏まえたうえで、ERPを経営のツールとして活用し、グローバルでの業務の標準化・効率化と経営の見える化を実現した。ERPの不完全さに苦しめられたわけだが、それでも欧米企業はやり遂げたのだ。

 一方、経営者や事業部門がERPをビジネス現場での便利ツールと捉えた日本企業では、このERPの不完全さにより様々な”悲劇”が生起した。ベストプラクティスと喧伝されたものはベストプラクティスではなく、その結果、自社の業務に合わせるために膨大な量のアドオンを開発したが、必要な機能が無い、性能が出ないなどで、結局ERP導入に失敗する企業が続出した。

 あとは、IT部門と事業部門、あるいはCIOと他の役員との間での責任のなすりつけ合い。その傷口の大きさから、今でも”ERP嫌い”の企業は多い。こうした悲劇を引き起こしてしまったのは、経営者や事業部門の過度な期待と、それを制御できないCIOやIT部門の弱さにも原因がある。CIOはITの不完全さや限界に起因する悲劇を二度と起こさないために、経営者らに啓蒙するとともに、それを防ぐ方策に責任を持たなくてはならない。