ICTの世界で近年話題になっている自動運転車、スマートホーム、スマートメーター、さらにスマート農業などの「スマート○○」の基盤となっているのが「IoT(モノのインターネット)」だ。あらゆるモノに通信機能を持たせ、インターネットを介して機器の自動制御やデータの自動収集などを行うのがIoTの基本的な考えだ。

 IoTが社会に浸透すると、通信機能を持った大小のデバイス(IoTデバイス)が大量に出回ることになる。米国では、1兆個ものセンサーを使った巨大なセンサーネットワーク「Trillion Sensors Universe」という概念が提唱されている。

 IoTデバイスを動作させるには電源が必要である。しかし、数が膨大になると配線やメンテナンスの時間・コストの面で電源確保が困難になってしまう。そのため、IoT普及のためにはIoTに適した電力供給技術が必須となる。

 本特集では、IoTデバイスへの電力供給技術として、エネルギーハーベスティングとワイヤレス給電を取り上げ、2016年現在の技術の状況や実用化レベルを解説したい。第1回の今回は、エネルギーハーベスティングを見ていこう。

エネルギーハーベスティングとは

 日本でエネルギーハーベスティングの実用化を目指している「エネルギーハーベスティングコンソーシアム」は、エネルギーハーベスティングを「周りの環境から微小なエネルギーを収穫(ハーベスト)して電力に変換する技術」と定義している。発電所での発電プロセスはこの定義に当てはまらないため、エネルギーハーベスティングには当たらない。

 IoTデバイスへの電力供給にエネルギーハーベスティング・デバイスを用いると、バッテリーや電源配線が不要となり、以下のメリットが生まれる。

●電源周りのメンテナンスの手間とコストが激減する
●バッテリーの性能が劣化するような高温・低温環境でもデバイスを利用できる
●バッテリーや配線の資源節約、使用後の廃棄物低減につながる

エネルギーハーベスティングのエネルギー源

 エネルギーハーベスティングに利用するエネルギー源は以下の4つの要素にまとめることができる(図1)。

動き・振動
人や機械の動きや振動、ボタンを押す圧力などを電力に変換する
熱・温度差
異なる金属をリング状に接合して接合部に温度差を与えると起電力が発生する現象(ゼーベック効果)を利用する

太陽電池を用いて、光エネルギーを電力に変換する
電磁波
アンテナで電磁波を受信し、電力を取り出す

図1●自然に存在するエネルギーハーベスティングのエネルギー源
図1●自然に存在するエネルギーハーベスティングのエネルギー源
(出典:エネルギーハーベスティングコンソーシアムの資料に基づき作成)
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 どのエネルギー源を利用する場合も、小型のデバイスでは得られるエネルギーが非常に微小となるため、エネルギーハーベスティング技術を進歩させ発電効率を向上させることが課題となる。

 以下で、それぞれのエネルギー源について実用化状況とトピックを挙げていこう。