「きな臭い」という言葉の語源は「きぬ(衣)くさい」で、綿などの繊維の燃えるにおいの形容だった。かつて火薬の主流であった綿火薬(ニトロセルロース)は、綿を硝酸と硫酸の混合液に浸して製造する。においが似ているので、転じて火薬のいを形容する言葉となり、さらには大量の火薬を使用する戦争の予兆や雰囲気を形容する言葉になった。
「安全保障」という言葉にきな臭さを感じる人は、かなり多いだろう。しかしここまで説明してきた通り、安全保障は軍や戦争行為だけではなく国のシステムや経済行為、国民生活の安定を維持するという幅の広い概念である。
軍事的脅威から国土や国家組織、国民の生命・財産を守るという狭義の安全保障に限っても、宇宙利用については民間の宇宙利用との差はどんどん小さくなっている。むしろ、広大な民間による宇宙利用の中の一部が、安全保障にも役に立つ状況になっている。以下、偵察衛星、測位衛星、早期警戒衛星を例に、実情を見ていこう。
偵察衛星技術が一般開放
宇宙の安全保障利用の代表例である偵察衛星の技術も、現在では民間に開放され、一般企業の利用が進んでいる。
米国は、1950年代末から中央情報局(CIA)と国家偵察局(NRO)による偵察衛星の運用を開始した。同時期に米航空宇宙局(NASA)では、広域の土地利用を調べる地球観測衛星の開発を進めており、1972年1月に世界初の地球観測衛星「ランドサット1」を打ち上げた。
1972年時点の偵察衛星と地球観測衛星は「望遠レンズを付けたフィルムカメラ」と「地表をスキャンする解像度の低いスキャナー」に例えることができる。
偵察衛星は写真フィルムを使って地上の軍事施設などを高精度で撮影する。フィルムはカプセルに入れて地表に落として回収する。それに対して、地球観測衛星は軌道直下の地表をなめるようにスキャンして、電子的に画像データを送信する。
しかしその後、偵察衛星は電子的に撮影した画像を送信する“デジカメ方式”へと進歩。地球観測衛星も、光学系やセンサーが高精度化して、より細かく地表をスキャンできるようになった。両者の技術的な差は小さくなり、現在ではほぼ消滅していると言ってよい。