前回、海洋監視で説明したように、航空機と比べた衛星の大きな利点は、広い地域の情報を短期間にまとめて取得できることである。

 特に、地球全体が今どんな状態にあるかを知ることができる道具は衛星をおいて他にない。

地表を一度に観察――早期警戒衛星、気象衛星、地球観測衛星

 安全保障面でその特性を生かした衛星としては、まず早期警戒衛星がある。赤外線カメラで地球を監視し、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射を、噴射ガスが発生する赤外線で検知する。

 米国は現在静止軌道上に「DSP(Defense Support Program)」という早期警戒衛星システムを展開しており、さらに次世代の早期警戒衛星システム「SBIRS」の開発を進めている。ロシアは、一時期財政難から早期警戒衛星システムを維持できなくなっていたが、2015年には次世代システム「EKS」の試験衛星「Kosmos-2510」を打ち上げ、現在運用を行っている。

 日本は、2019年度に打ち上げる予定の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の地球観測衛星「先進光学衛星」に、防衛施設庁が開発する2波長赤外センサーを搭載することになっている。これは早期警戒衛星向け赤外線センサーの試験モデルだ。

 最近の早期警戒衛星はかなり性能が上がっているようだ。2014年7月にウクライナで起きたマレーシア航空17便撃墜事件で、米国はSBIRS開発のために打ち上げた技術試験衛星「STSS」で、ICBMよりずっと小型のロシア製「ブーク」対空ミサイルの発射を検知したらしい(関連記事:なぜオバマ大統領は「撃墜はロシアに責任」と言えたのか――米国の早期警戒衛星システムの一端が明らかに)。

静止軌道上で稼働している米国の早期警戒衛星「DSP」
静止軌道上で稼働している米国の早期警戒衛星「DSP」
(出所:米空軍)
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 ただ、現状で広義の安全保障に最も実務的に役立っているのは、気象衛星だといえるだろう。気象衛星の取得する天候情報は、天気予報や防災目的で使用されている。もうこの時点で広義の安全保障に役立っているわけだ。それだけでなく、気象情報は軍事作戦においても必須であることはいうまでもない。