「情報システム開発の工期は当初計画より短縮できる」。こう言われたら「無理。当初決めた期日に間に合わせるだけで精一杯」と反論したくなる。だが、工期の短縮に挑み、成果を挙げた企業が出てきている。その実例と取り組みの勘所を紹介する。

●建材メーカー、YKK APは生産管理向けアプリケーションの開発プロジェクトで、詳細設計から結合テストに至る工期を当初予定の約6カ月から約5カ月に短縮した。

●富士通で教育機関向け事務システムの開発を担当する部門は、あるプロジェクトでテスト工程の所要日数を7日間短縮した。7日間は当初予定の約15%にあたる。

●情報システムの開発ではないが、北九州市に本拠地を置き、浄水器の製造・販売、金型設計・製作を手掛けるタカギは金型事業の工程において部品加工から納品までに至るリードタイムを60日から50日に短縮した。このうち金型製作の期間を22日から14日に短縮している。

 タカギは金型製作のスループット(一定期間内に完了した案件の数)を月間4件から月間5.3件に向上させた。工期を短縮できる力が組織に付いてくると、こなせる案件の数を増やせる。

●大和ハウス工業とそのグループは2011年度に342件だった完了プロジェクト数を2012年度に505件、2013年度に800件、2014年度に898件と増加させている。この間、開発要員数はさほど増やしていないという。

 4社はいずれも「CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)」と呼ぶ手法を採用している。CCPMは『ザ・ゴール』の著者、故エリヤフ・ゴールドラット氏が考案したもので、同氏が提唱した制約理論(TOC)に基づいている。

 大和ハウス工業グループは2011年、販売管理や財務管理など基幹系システムの開発にCCPMを適用し、開発とテストのフェーズで2.5割~3割弱の工期短縮に成功した(『3割減の工期で「いつもの疲弊が無い」を』参照)。同グループは2012年以降、既存システムの保守開発案件も含む全てのプロジェクトにCCPMを適用している。

 CCPMは手法に過ぎず、実行するのは人であり、成果を上げるには意識改革が必要になる。YKK APの情報システム部黒部システム開発グループ生産システム課に所属する岩宗幸弘氏は次のように語る。

 「CCPMの実践を通じて、プロジェクトマネジャーの従来概念を捨て去ることになった。例えば『タスクが複数重なる状態を何とかやりくりするのがプロマネ』という思い込みが今まであったが、タスクの重なりを排除してメンバーを一つのタスクに専念させることが重要だと分かった。CCPMで成果を出せたのは、思い込みから脱したからだ」。

 また、富士通の行政・文教システム事業本部で教育機関向け事務システムの開発を担当する井上雅貴文教第三ソリューション統括部第一ソリューション部員は次のように述べる。「CCPMを適用したことでチームの雰囲気が『スケジュールを守る』から『スケジュールを攻める』に変わった」。