筆者は書籍編集の仕事を10年しているが、「本がどれくらい売れるか」がいまだによく分からない。「いい本だ」とはわかるし、そうなるように編集するものの、それがどのくらい売れるか、どのくらい支持してもらえるかは、特に発行前にはなかなか分からないのだ。

 冒頭から悩み相談のようで心苦しいのだけれど、昨年春に発行した『HARD THINGS』(ハード・シングス)という本は、私の予想をはるかに超える多くの方に支持してもらった。

写真●アンディ・グローブ氏の著書『インテル経営の秘密』とベン・ホロウィッツ氏の『HARD THINGS』
写真●アンディ・グローブ氏の著書『インテル経営の秘密』とベン・ホロウィッツ氏の『HARD THINGS』
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 『HARD THINGS』は、シリコンバレーの元起業家で現在は投資家として活躍する著者のベン・ホロウィッツ氏が、若手CEO(最高経営責任者)に向けて書いた本である。「これはすごく面白い本ですよ」と営業担当や上司に説明しても、「中川さん、日本にCEOが何人いると思っているんですか?」などという具合にたしなめられると、「まあ確かに……」と声が小さくなる。私自身「出してみないと分からない」ので、仕方がない。

 その『HARD THINGS』が5万部を超え、4月28日に「ビジネス書大賞2016」の大賞を受賞することが決まった。シリコンバレーのCEO向けの本ではあるが、日本でも「答えがない難問」に取り組んでいる会社員や経営者などのみなさんに、幅広く支持してもらったおかげである。

 本書には数多くの読みどころがあるが、特にインテル元会長兼CEOのアンディ・グローブに関する記述が印象的である。著者のベン・ホロウィッツ氏は、アンディ・グローブ氏を師と仰ぎ、『インテル経営の秘密』(早川書房)などの著書を読み込み、そして直接話を聞きに行き大きな影響を受けたという。

 そのアンディ・グローブ氏は、2016年3月21日に79歳で死去した。この記事では、ベン・ホロウィッツ氏はもちろん、多くの経営者に慕われたシリコンバレーの偉大な経営者、アンディ・グローブ氏の教えをいくつか紹介したい。