「社員を育てるのは人事の役割」(人事部の白岩徹部長)と公言するKDDIの人事部。幹部候補生だけでなく、現場を支える幅広い従業員にも目を向けて新たな施策を打ち出している。同社は従業員の健康維持を目的に、2015年7月から「勤務間インターバル制度」と呼ぶ勤務制度を導入した。退勤してから翌朝出勤するまでの休息時間を一定以上確保するもので、欧州連合(EU)加盟国では1993年以降、11時間のインターバル確保が義務づけられている。

 日本企業の多くはこれまで、総労働時間や残業時間を基にした勤怠管理が主体だった。KDDIも同様だったが、長時間労働をゼロにはできず、悩みの種になっていた。

 そんな折、2015年の春闘で労働組合から「インターバル制を全社に導入してほしい」との要求が届いた。KDDIでは2012年に、裁量労働制を適用している一部社員を対象にインターバル制を導入しており、この適用拡大を求めたのだ。

8時間と11時間、「2段階」の制度設計で実効性を確保

就業規則と安全衛生管理規程の2本立てで、社員が休息を取れる環境を確保
就業規則と安全衛生管理規程の2本立てで、社員が休息を取れる環境を確保
[画像のクリックで拡大表示]

 インターバル制の導入自体は人事部も前向きに検討を始めたが、悩んだのが休息時間の長さだ。仮にEUと同じ11時間の確保を義務化すると、朝9時の定時に出勤するには午後10時に退勤する必要がある。しかし業務がピークの時期には午後10時以降残業する社員もおり、実務に支障が出る恐れがあった。かといって短すぎれば、従業員の健康維持という目的が骨抜きになってしまう。

 そこで同社が編み出したのは、拘束力の異なる2段階のインターバルを組み合わせる制度設計だ。第1の関門として、安全衛生管理規程で11時間のインターバルを制定。月に数日は11時間を下回っても違反にならないが、11時間未満が月11回以上になると産業医との面談が必要になる。第2の関門として、就業規則で8時間のインターバルを設け、こちらは強い拘束力を持たせた。これを下回ると、8時間経つまで就業禁止とし、翌日の就業時間を後ろにずらす必要がある。「EUの制度を社内に合った形でカスタマイズしたことで導入しやすくなったし、健康維持という面でも活用しやすい」と人事部の茂木達夫給与グループリーダーは胸を張る。

 運用開始後、月に20〜30人ほどインターバルの制限に抵触する社員が出ているという。今までは見えなかった過重労働が、それだけあったということだ。茂木グループリーダーは「熱意ある社員が倒れてしまうのを、インターバル制の導入で防げた」と前向きに捉えている。今後は、限られた勤務時間のなかでより高い成果を上げられるよう、社員の意識付けにも取り組んでいきたいとする。

KDDI人事部の(左から)茂木達夫グループリーダー、間瀬英世室長、千葉華久子グループリーダー、白岩徹部長
KDDI人事部の(左から)茂木達夫グループリーダー、間瀬英世室長、千葉華久子グループリーダー、白岩徹部長
[画像のクリックで拡大表示]