ビジネス英語のレッスンで模擬プレゼンに臨むKDDIの社員たち
ビジネス英語のレッスンで模擬プレゼンに臨むKDDIの社員たち
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 東京・西新宿の高層ビル街にあるKDDI新宿ビルの会議室。4人の日本人が順番に立ち上がり、英語によるプレゼンテーションを繰り返していた。「今の説明では分からない。なぜ君はそれが必要だと思うのかね」。2人の外国人講師からは容赦なく、プレゼン内容に対し突っ込んだ質問が飛ぶ。KDDIが、将来の同社を担う幹部候補生に対し実施している英語研修の一コマだ。

 同社は2015年、幹部候補生を対象にした英語研修制度を試験的に開始。各部門の現場で陣頭指揮を執る部長級の社員のなかから5人を指名。10月から翌2016年3月までの半年間にわたり英語を学ばせた。

朝8時から夕方5時までレッスン、携帯もパソコンも回収

 といっても、業務の合間を縫って早朝・夜間や週末に学ぶといった生半可なものではない。半年間は現場業務から引き離し、業務用のパソコンや携帯電話も回収。さらに前半3カ月はフィリピンの首都マニラの語学学校へ派遣するという徹底ぶり。同社がいかに英語力を重視しているか、本気度がうかがえる。

 マニラの語学学校では、月曜から金曜まで連日個人レッスンを受ける。授業は早い日で朝8時から夕方5時まで。講師と1対1で向き合う逃げ場のない状況で、基礎からみっちり英語をたたき込まれる。

 帰国後も業務に復帰せず、都内で1日6時間のレッスンを連日受講する。冒頭で紹介したプレゼンテーションのほか、会議や交渉などビジネスの具体的な現場を想定した、実践的な英語スキルを体得する内容だ。3月末には、田中孝司社長の前での英語プレゼンという“最終関門”も待ち受ける。

現場の業務から切り離し、半年間英語に専念させる
現場の業務から切り離し、半年間英語に専念させる
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田中社長の鶴の一声「喫緊なのは部長クラスだろう」

 こうした幹部候補生向けの英語研修は、人事部と役員との対話のなかで生まれたアイデアだという。実は人事部では、2014年秋から毎週1回の朝礼を英語で実施するなど、早くから英語重視の方針を打ち出し、自ら実践していた。「変革はコーポレート部門から、人事から起こすと常日ごろから言い続けている」という人事部の白岩徹部長の発案である。

 そんななか、人事部で英語研修を担当する千葉華久子グローバルグループリーダーは、入社4〜8年目の若手を海外へ派遣するトレーニー制度や3カ月〜1年間の留学制度の拡充を考えていた。ところが「田中社長に諮ったところ『若手や中堅はもうやっている。喫緊の課題なのは部長クラスだろう』と返された」。

 同社はミャンマーの携帯電話事業者に出資するなど、海外事業の拡大に力を入れている。しかし、もともと英語が堪能な田中社長を除けば、マネジメント層で英語に長けた人はまだ少ない。将来の経営を担う層にグローバル人材が育っていないと、いずれ立ちゆかなくなる。田中社長はそんな危機感を抱いていた。