サイバー攻撃者の「無力化」を目的とする、産官学連携のサイバー犯罪対策組織「一般財団法人日本サイバー犯罪対策センター(JC3:Japan Cybercrime Control Center)」は2016年3月10日、年次カンファレンス「JC3 Forum 2016」を開催した。副題は「サイバー脅威の特定・軽減・無効化に向けて」。会場は満席で、約300人が講演を熱心に聞き入った。

サイバー犯罪者優位を崩すJC3

 開会の挨拶では、JC3の代表理事を務めるNECの清水隆明取締役執行役員常務兼CMO(最高マーケティング責任者)が「現下のサイバー攻撃の脅威は極めて深刻」と話を切り出した。一例として、2015年はインターネットバンキングの不正送金の被害額が史上最悪になったことや、日本年金機構をはじめとする多数の企業・団体が標的型攻撃による情報窃取の被害に遭ったことを挙げた(関連記事:2015年のネットバンキング不正送金被害額は30億7300万円、過去最悪にサイバー攻撃の情報流出は氷山の一角、真の危機はこれから)。

 清水氏は「これらは日本を標的に狙う『作戦』とみられている」と見解を示した。防御は進みつつあるものの、「防御のみの対応では、『攻撃者は小さなリスクで攻撃を仕掛けて、成功した場合のリターンが大きい』という現状を変えにくい」と課題を指摘。JC3はこの課題を解決するため、「攻撃者に反撃したり、攻撃に先制的に対応したりするスキームで活動している」(清水氏)とした。

 清水氏はJC3の活動を「産官学のメンバーの信頼関係を基に脅威を明らかにし、脅威の大元に迫るために一歩進んだ情報共有と協働を進めている」と紹介(関連記事:攻撃者の「無力化」を図る、産官学連携のサイバー犯罪対策組織が始動)。「今度も信頼関係の輪を広げていきたい」と挨拶を締めくくった。

2020年東京大会でサイバー攻撃は必ず起こる

公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の今井勝典警備局長
公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の今井勝典警備局長
東京大学法学部卒。1989年警察庁入庁、1993年米ニューヨーク大学法科大学院修了。2008年警視庁警備部警備第一課長、2010年警察庁長官官房総務課広報室長、2012年内閣官房副長官補(安全保障・危機管理)付内閣参事官、2014年警察庁長官官房参事官(拉致問題担当)を経て2015年4月から現職。
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 基調講演では、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の今井勝典警備局長が「オールジャパンの危機管理体制構築について」と題して講演。現実空間とサイバー空間の両方のセキュリティの責任者を務める今井氏は、「2020年の東京オリンピック・パラリンピックでサイバー攻撃は必ず起こる。オールジャパンで防衛体制を作って守り切る」と強調した。

 2020年の東京大会は、オリンピックが2020年7月24日から8月9日まで28競技306種目で、パラリンピックが同年8月25日から9月6日まで22競技527種目で開催される。「オリンピックは平時における世界最大のイベント」(今井氏)であり、参加人数は2012年にロンドンで開かれたオリンピックで5万人超だった。204の国と地域から10万500人の選手が参加したほか、大会関係者は30万人に達した。8000人の選手帯同役員、8300人の来賓、2万4800人の報道関係者、多数の国家元首・来賓が訪れたという。

 試算では、東京2020大会のオリンピックでは1000万人近い観客数を見込み、7万5000台の車の検査も必要になるという。想定する警備体制は5万850人で「過去最大」(今井氏)という。

警備要員の内訳
警備要員の内訳
(出所:今井氏の講演資料)
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