「デジタルマネー(Digital Money)」というキーワードを聞くとビットコインのような暗号通貨(Cryptocurrency)や、オンラインゲームなどでの取引に用いられる「仮想マネー」のようなものを想像される方も多いかもしれない。だが金融全般に定義を広げてみると、もっと広範囲でデジタルマネーが使われており、我々の生活に深く浸透していることが分かる。例えば、多くの金融取引は既に電子化されている。銀行や関連組織の間で電子的なデータとして価値のやり取りが行われており、効率的で素早い取引が可能になっている。

デジタルマネー対応とその効果

 これは日本でのおなじみの電子マネーカードやクレジットカードのほか、携帯端末を使ったオンライン決済、店頭でのオフライン決済といったものにも通じている。デジタルインフラの発達した国は、金融取引が比較的活発な国であることも意味している。逆に、デジタル対応が遅れている国は、金融効率化と市場拡大による成長余地を残しているともいえる。この差を埋めていくことが将来的な経済発展へとつながることになる。

 とはいえ、金融取引は規制と常に隣り合わせであり、各国の政治経済事情や国民の生活動向に大きく左右される。デジタル対応度の面でまだ成長余地を残していたとしても、その差を埋めるのは容易ではない。

 また前回も少し触れたように、途上国など国民の多くが銀行口座を持たない地域(Unbanked)では、その生活スタイルや水準が発展の妨げとなる。米Citiでは英Imperial College Londonと共同で「Digital Money Index」と呼ばれる世界90カ国を対象とした“デジタルマネー”対応状況をまとめた資料を毎年作成している。最新の2016年版は3回目で、Citibankのページで公開されている(https://www.citibank.com/icg/sa/digital_symposium/digital_money_2016/)。

 「Mobile World Congress 2016」(MWC 2016)で開催されたパネルディスカッションでは米Citi財務取引ソリューション担当グローバルヘッド(Global Head of Treasury and Trade Solutions)のNaveed Sultan氏が登壇し、この「Digital Money Index」について説明した(写真1)。この調査では「政府と市場のサポート」「金融と技術インフラ」「デジタルマネーソリューションの存在感」「採用動向」の4つのファクターから成り立っており、それぞれについて90カ国のランキングを行い、総合順位を決定している。

 また、ランキングに応じて「Incipient(初期)」「Emerging(新興期)」「In-transition(転換期)」「Materially Ready(成熟期)」の4つのグループを形成し、標準偏差からのスコアを与えている(写真2)。上位国でも個々のファクターの対応度は大きく異なっており、それぞれの傾向が分かる点は面白い。

写真1●米Citi財務取引ソリューション担当グローバルヘッド(Global Head of Treasury and Trade Solutions)のNaveed Sultan氏
写真1●米Citi財務取引ソリューション担当グローバルヘッド(Global Head of Treasury and Trade Solutions)のNaveed Sultan氏
(撮影:鈴木淳也、以下同じ)
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写真2●CitiがImperial College Londonと共同で進めている調査プロジェクトの最新版「Digital Money Index 2016」。世界90カ国のデジタルマネー対応をランキングし、4つのグループに分類している
写真2●CitiがImperial College Londonと共同で進めている調査プロジェクトの最新版「Digital Money Index 2016」。世界90カ国のデジタルマネー対応をランキングし、4つのグループに分類している
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