交渉の場で、自分たちの都合ばかり説明してしまい、失敗に終わった経験は誰もがあるのではないでしょうか。交渉をうまく進めるためのポイントをケーススタディで見ていきましょう。

どこがNG?

 西新宿システム・芦田さんは、ナカノシマ社の営業支援システムで初めてプロジェクトマネージャを担当しています。ナカノシマ社には社員の下川さんと協力会社の矢吹さんの2名が常駐し、システムの運用保守を担当しています。

 この4月から、下川さんは職務グレードが上がり、工数単価も上がることになりました。同時に、矢吹さんの所属企業から単価アップの依頼があり、利益を確保するため、契約金額の見直しをナカノシマ社・妹尾さんに打診することにしました。

芦田「本日は折り入ってお願いがございます。実は、現在常駐しているエンジニアの単価がアップした関係で、契約金額を来期よりXX万円からYY万円に変更していただけないでしょうか?」

妹尾「え、金額が上がるのですか?」

芦田「はい、全体的に人件費が上がり、エンジニアの市場価格も高騰しているものですから」

妹尾「それ、お宅の事情ですよね。サービスは今より良くなるのですか?」

芦田「い、いえ、業務内容に変わりはないのですが」

妹尾「うちには何のメリットもないですね」

芦田「え、そうですが……。でも、単価が上がっているので、うちとしても厳しくて」

妹尾「金額は上がるけど、こちらに対する付加価値が増えていないのであれば、予算取るのは難しいなぁ。第一、私が社内を説得できない」

芦田「うーん、弊社も質の高いエンジニアを派遣し続けるためには仕方のないことでして……」

妹尾「そう言われても……これ以上の費用は出せないなあ。品質を維持してくれれば、単価の低い方に替えていただいてもいいので、費用は据え置きでお願いします」

芦田「……」

 結局、お客様との交渉は失敗に終わり、その後1年は契約金額を据え置いて対応することになりました。芦田さんは社内で利益率の低さを追及され続けることになってしまいました。