エンタープライズITで創造的な変革をもたらした製品・サービスの提供企業50社を表彰する「ミライITアワード 2016」。日経コンピュータが今回創設した表彰制度だ。50社の中で最も先進的な1社を選出する総合グランプリに加えて、10部門ごとのそれぞれで部門グランプリも選んだ。「食」の部門グランプリを受賞したのが、富士通の「Akisai」である。イノベーションビジネス本部ソーシャルイノベーションビジネス統括部の若林毅シニアディレクターが、日本の農業が抱える課題を踏まえ、ITが農家にもたらした価値を語る。
Akisaiはどのように誕生したのでしょうか。
富士通はここ数年、ICTの力でビジネスや社会にイノベーションを起こし豊かで持続可能な社会を築き上げるべく、新たな製品・サービスの開発に取り組んでいます。その一つの重要テーマとして掲げたのが農業でした。そこで2008年、農業の現場が一体ICTに何を求めているのか肌で感じ取ろうと、30代の若手エンジニアを全国10カ所に派遣しました。1週間草むしりを手伝い、夜は夜で農家のみなさんとお酒を飲みながら課題を浮き彫りにしようと思ったわけです。
そこから浮かび上がってきたのは、仮説が必ずしも正しくなかった事実でした。畑にセンサーネットワークを構築すればいい、などと「プロダクトアウト」な考え方で農業を捉えていました。
しかし実証実験を繰り返すうち、実は本質的に農家の皆さんが求めていたのは、規模を拡大しやすいようにデータに基づいてきちんと経営をサポートすることだったんです。
確かに、TPPの発効を控え、輸入農産物との競合が激しくなりそうです。
全国に農業生産法人は約1万5000あります。その多くは個人経営で、しかも高齢化が進んでいます。10年後には農業の就労人口は半減するとの予測もあり、大胆な改革が求められているのです。具体的にはグローバル化が進む世界で通用する「強い農業」に転換するには、規模を拡大しなければなりません。
私は規模の拡大には2通りあると考えています。一つは欧米のように1社がそのまま巨大化していくタイプ。もう一つは集約型と呼ばれるもので、個人経営の農家が100、1000と集まってバーチャルな農業生産法人になるタイプです。日本で起こっているのは後者で、そこにクラウドを使って農業経営を効率化するAkisaiが受け入れられつつあります。
例えば長野県では自治体とコメ農家がタッグを組みました。農家がクラウドに作業に関するさまざまな情報を入力し、自治体と一緒になって分析して健全な経営に役立てようとしています。もともと農業協同組合(JA)には営農指導員、自治体には普及指導員といった具合に農家の支援者がいます。データを双方で共有する環境を整えれば、一体となって強い産地作りや地域ブランドの確立が可能になるはずです。