EC業界における今後の焦点は、ネットとリアルを融合した販売施策である「オムニチャネル」だろう。1999年のドットコムバブルのころからの古くて新しいテーマだが、当時は目指す姿を実現するのが難しかった。

オムニチャネルの概念
オムニチャネルの概念
[画像のクリックで拡大表示]

 「クリック&モルタル」という言葉を覚えているだろうか。ネット企業に対抗して、リアルな店舗を持つ企業が店頭受け取りなどを実験するなど、長く模索が続いた。

 大きな転機となったのがスマホの登場である。2007年にiPhoneが発売され、人々はスマホを常に持ち歩き、そして店内でもスマホで情報を収集するようになった。

ショールーミングへの対抗策

 この状況は米アマゾンが2011年ごろにリリースした価格比較アプリ「プライスチェック」で、一気に加速する。このアプリは店頭でバーコードをスキャンするだけでアマゾンの商品を検索し、価格を調べることができるものだ。リアル店舗よりもアマゾンの価格の方が低い商品が多く、そのままワンクリックでアマゾンの商品を購入できる。リアルな店舗をアマゾンの商品の陳列スペース、すなわちショールームにしてしまうということから「ショールーミング」という言葉が生まれ、リアル店舗を運営する小売り業の強烈な危機感を生み出した。そこからオムニチャネルの概念が急速に盛り上がることになる。

 オムニチャネルの分かりやすい取り組みはECサイト上での店頭在庫の表示である。顧客は自分の欲しい商品を自宅に配送してもらうこともできるが、店頭に在庫があればそのまま今から買いに行くこともできることになる。都心に住んでいる消費者ならば、公共交通機関を使えば30分程度で来店できるケースが少なくない。たいていのECより早く商品を手に入れられる。注文も受け取りも、好きな場所で好きな時間に。これがオムニチャネルの強みだ。

 オムニチャネルに注力する1社がヨドバシカメラ。アマゾンに顧客を奪われる対象の筆頭格とも言える家電量販店だ。同社は現在、ECサイト上で、商品が顧客の手元に届くまでにかかる時間を最低30分単位で表示している。秋葉原と梅田の両店で24時間対応も実施。さらに自宅へ最短6時間で配送するサービスも始めた。これは今のところアマゾンよりも速い。大事なプリントアウトの途中でインクが切れたとか、ハードディスクが壊れたなど、今すぐ必要な時にはアマゾンよりも早く入手できるわけだ。