一般のユーザーにとって、情報システムは画面として見えているものがすべてです。UIは、ユーザーが知覚するサービスの全体像であるといえます。すなわち、UIが悪くてうまく使えないのなら、その情報システムやサービスは意味がないのです。

 また、UIデザインは往々にして「芸術的センスの良い人が担当するべきものだ」という誤解をしている方もいますが、そんなことはありません。少なくともUIデザインの7割は論理的に良しあしや仕様が決まります。

 そこで本連載では、UIデザインの原理原則の中で、比較的短時間で少しずつ吸収できるトピックを選んで紹介していきます。以前よりも、UIデザインをもっと身近な領域と感じていただけたらと思います。

UIにも慣用表現がある

 UIデザインはどうやって作っていくのか、というデザイン基礎の中で、まず「UIにもイディオム(慣用表現)がある」というトピックから始めたいと思います。

 UIデザインの領域のイディオムとは、操作と表現の組み合わせに関する慣用表現です(図1)。

図1●UIデザインにおける「イディオム」とは
図1●UIデザインにおける「イディオム」とは
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 アラン・クーパー氏という有名なUIの研究家がこういうことを言っています。「すべてのイディオムは学習を必要とするが、優れたイディオムは一度学習すれば身につく」。

 つまり、最初に見た時にはよく分からないのですけど、触って見たら分かる、ああ、そういうことかと。一度学習すれば、もう絶対に忘れないようなものです。例えば最近のスマートフォンの画面には、スクロールバーがありません。しかし一度触ってみれば、指で画面のなぞるだけでスクロールできることが分かり、一度それが分かれば、もう忘れることはないでしょう。いったんそのイディオムになじむと、むしろスクロールバーがある方がおかしいのではないかと思えてくるのです。

 そう行ったイディオムというものがどのようににできているかというと、プリミティブな操作と表示の組み合わせで出来上がります。