ビットコインの発明者であるサトシ・ナカモトは、その論文の中で、ビットコインを発明した目的は「信頼できる第三者」が不要な決済システムを提案することである、と述べている。サトシ・ナカモトがブロックチェーンを発明する前は、「信頼できる記録」を作る一般的な方法は、銀行や政府のような「信頼できる第三者」を利用する方法だった。

 ビットコインのプルーフ・オブ・ワークは、最初に発見した者に通貨発行益を与えるインセンティブ(報償)により、ゴールドラッシュにも似た計算競争の状況を人工的に作り出す。その結果として、継続的に計算される状況が生まれる。この計算競争は、金の採掘になぞらえて「採掘(マイニング)」と呼ばれ、計算競争への参加者は「採掘者(マイナー)」と呼ばれている。

 「採掘」による計算競争の勝利者は、新しいブロックを作成して既存のブロックチェーンに接続する権利を得る。この新しいブロックの中に自分あての送金となる「コインベース」と呼ばれる取引記録を含めることが許されるが、これがマイニングのインセンティブである。

 採掘者は、新しく作成したブロックをビットコインネットワークに放送し、すべてのノードのブロックチェーンに接続することを依頼する。ただ各ノードでは新しいブロックを無条件でブロックチェーンに接続するわけではない。ブロックの中の取引記録の整合性をすべて検証したうえでないと、自身のブロックチェーンには反映されない。

 このため採掘者は、不正な取引記録を含んだブロックを作ることができない。なぜなら自分が作成した新しいブロックの検証が失敗し、ブロックチェーンへの接続が拒否されると、自分へのインセンティブであるコインベースも無効になるからである。

 ちなみに、計算競争の対象となる計算は、ビットコインの場合は平均10分になるように、各ノードのビットコインのソフトウエアの「コード」で難易度が自律的に調整される。計算競争は約10分ごとに繰り返し競争が行われるため、ゲーム理論で言うところの「繰り返しゲーム」と同じ構図だ。

 以上のように、ビットコインでは、「採掘」という人間の欲望に基づく競争状態によって、「信頼できる第三者」を必要としないコンセンサス形成システムを実現している。