2003年の7月から8月にかけて、日経ビジネスEXPRESSで公開していた「経営の情識」の中で、技術リテラシーに関するコラムを3本書いた(『経営の情識』は日経ビジネスオンラインで連載を継続している)。

 3本の題名は『円周率を「3」にしてしまう日本の教育と「技術リテラシー」』、『続・円周率を「3」にしてしまう日本の教育と「技術リテラシー」』、『日本の技術教育でまったく教えていないこと』であった。

 以上3本のコラムをまとめて再公開する。まず1本目、『円周率を「3」にしてしまう日本の教育と「技術リテラシー」』である。

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 「IT(情報技術)リテラシー」と聞くと、ほとんどの人はパソコンを操作する能力を思い浮かべるのではないか。パソコンが使えること自体は結構だが、それだけで経営に役立つわけではない。むしろ情報システム全体の仕組みを理解し、そこから出てくる情報を経営に生かす能力の方がはるかに重要である。

 「リテラシー」とは読み書きができる能力を指す。これにITに関する言葉をつけた言い回しはかなり以前からあった。ちょっと前はコンピュータリテラシーと言ったりした。

 多くの経営者やビジネスパーソンにとっては、企業全体を支える情報システムの方が、パソコンよりも重要なITだろう。だが、情報システムは仕事で必要な情報を作り出す仕組みに過ぎない。重要なのは、情報システムよりも情報そのものである。

 一番大事なことは情報から意味を読みとって経営判断をし、仕事を改善していける能力である。この力があって初めて、コンピュータを使いこなしたと言える。

 「コンピュータなんかに経営ができるか」という経営トップがいたとしたら、その発言の半分は正しい。より正確な表現は、「コンピュータだけでは経営できない」である。

技術を使用・管理・評価する能力を習得させる米国

 ITリテラシー即パソコン操作といった誤解と似ているのが、「技術リテラシー」を巡る日本の教育方針である。技術リテラシーという言葉はなじみがないかもしれない。英語では、「テクノロジカルリテラシー」と呼ぶ。