2016年4月20日にAWSとAzureの専門ニューズレター「日経クラウドファースト」を創刊するに当たり、クラウドサービスに精通したエンタープライズ分野のアーキテクトや、ITベンダーのマネジャーに日々取材している。

 最近、頻繁に出る話題は、転職の誘いと人材不足。クラウドが進化を続け、エンタープライズ分野での活用が進む――との明るい展望を2016年も描けるかというと、そうではない。年初からネガティブな話になってしまうが、エンタープライズ分野のクラウド活用を展望するうえで、人材不足の話題は避けて通れない。

 きっかけは2015年に始まった、日本マイクロソフトと日本オラクルのクラウド事業での攻勢だ。両社とも、ワールドワイドでの戦略に沿って、クラウド事業の強化に邁進している。他のクラウド事業者やシステムインテグレータも含めて、人材獲得合戦が繰り広げられている。

 目当ては、クラウドと業務システムの両方に精通した人材だ。ユーザー企業でのクラウド活用は、Eコマース、モバイルアプリ、営業支援/マーケティングといった新規システムにとどまらず、基幹系を含む既存の業務システムへと広がりを見せている。業務システムのクラウド移行では、クラウドに詳しく、しかもエンタープライズ分野での知識や経験を持つ人材が必要だ。

 あるユーザー企業のシステム部マネジャーは、「クラウドも業務システムも分かるITベンダーのアーキテクトを見つけて、所属企業に指名で依頼しても、プロジェクトの最初しか来てもらえない。1年前とは様相が変わった」とこぼす。

 クラウドと業務システムの両方に精通した人材が逼迫しているのは、需要が急増したからという理由だけでない。むしろ、供給が乏しいことのほうが問題かもしれない。

 クラウドを使ったシステム構築では独自のノウハウが求められるうえに、新サービスの投入や機能拡張などの動きが速く、エンタープライズ分野のシステムエンジニア(SE)の多くはキャッチアップできていない。組織的な支援が乏しく個人の努力に委ねられている状況では、クラウドが分からないことを責められないだろう。逆の見方をすれば、エンタープライズ分野の知識や経験を持つSEがクラウドにも精通することで、市場価値を大きく高められる。

ユーザー企業にとってベンダーの見極めが重要に

 人材不足は当面解消されない気配で、ユーザー企業のクラウド活用の意欲は旺盛だが、ブレーキが掛かる可能性がある。ユーザー企業にとっては、システム構築を委託するITベンダーをより慎重に選ぶ必要が出てくる。社内やグループのIT関連会社で、クラウドに精通した人材を育てる取り組みも進みそうだ。