「Silicon Valley is coming(シリコンバレーがやってくる)」――。米JPモルガン・チェースのジェームズ・ダイモンCEO(最高経営責任者)は2015年4月に送付した「株主への手紙」のなかで、スタートアップ企業が提供する金融サービスへの危機感を露わにした。米国の大手金融機関のトップの言葉は、テクノロジー発の新しい金融サービスFinTechの影響力を物語る。

 FinTechの波は日本にも押し寄せている。金融関連サービスに参入するスタートアップ企業が次々と誕生し、大量の顧客を抱えるサービスも出てきた。今まで静観を保ってきたように見えた銀行も一斉に動き出している。共栄と対立の構図が混じり合うFinTechをキーマンはいかに見ているのか。AlpacaDBの横川毅CEO(最高経営責任者)に聞いた。

(聞き手は浅川 直輝=日経FinTech



AlpacaDBの横川毅CEO(最高経営責任者)
AlpacaDBの横川毅CEO(最高経営責任者)
2004年から米リーマン・ブラザーズ・ホールディングスで勤務。証券化商品や金融派生商品を取り扱う部署に在籍する。退社後、3年間個人でデイトレードを行う。2013 年2 月、共同創業者と共にAlpacaDBの前身となる企業を創業。現在は米サンマテオ、品川、神戸にオフィスを構える。(写真:陶山 勉)
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 我々が開発している「Capitalico」は、デイトレーダーが持つ取引のノウハウを人工知能に学習させ、プログラミング知識のないトレーダーでも独自の自動取引アルゴリズムを生成できるサービスです。2015年10月にベータ版として開始し、2016年2月以降に一般向けに提供する考えです。

 デイトレーダーは、チャートを見て、価格や移動平均線(一定期間の価格の平均を線を結んだもの)に特定のパターンが出現したときに「次はこう動くはず」と予測し、売り買いをしています。そのために、ローソク足(始値・高値・安値・終値を示す棒状のグラフ)や移動平均線を終日見続ける。そうすることで直近の値動きの傾向を脳にため込み、次の流れを予測できるようになります。一種のパターン認識ですね。

 一部のデイトレーダーは、その知見をルールベースのモデルに落とし込み、自動で取引するプログラムを書いています。例えば「値動きが100円まで下がり、次に120円まで上がったら、10株分の取引をする」といった具合にです。優れたデイトレーダーの自動取引プログラムで、勝率は60%ほどだとされています。

 ただし、こうしたプログラミングができるデイトレーダーは少数です。ルールベースで記述できるパターンにも限界があります。私自身、デイトレーダーとして活動した経験がありますが、価格変動パターンの知見を取引に生かすには、一日中取引の画面に張り付き、同じパターンが現れるのを待つしかありません。

 そこで「Capitalico」では、デイトレーダーのパターン認識を人工知能で再現しようと試みています。パターンに関する知見の検証や、自動取引アルゴリズムを生成するのです。これによりプログラミングスキルのないデイトレーダーでも、自動取引ができるようになります。