「Silicon Valley is coming(シリコンバレーがやってくる)」――。米JPモルガン・チェースのジェームズ・ダイモンCEO(最高経営責任者)は2015年4月に送付した「株主への手紙」のなかで、スタートアップ企業が提供する金融サービスへの危機感を露わにした。米国の大手金融機関のトップの言葉は、テクノロジー発の新しい金融サービスFinTechの影響力を物語る。
FinTechの波は日本にも押し寄せている。金融関連サービスに参入するスタートアップ企業が次々と誕生し、大量の顧客を抱えるサービスも出てきた。今まで静観を保ってきたように見えた銀行も一斉に動き出している。共栄と対立の構図が混じり合うFinTechをキーマンはいかに見ているのか。三井住友フィナンシャルグループの中山知章ITイノベーション推進部長に聞いた。
FinTech企業の勢いをどう見ていますか。
今まで銀行は「絶対に止めてはいけないシステム」を守る世界で生きてきました。とても重要なことですが、安全性に固執するあまり、顧客ニーズの変化と銀行が提供するサービスとの間にギャップが生じているのもまた事実です。
スタートアップ(新興)のFinTech企業が手掛けるサービスは、この溝を埋めることでユーザーを獲得しているのだと認識しています。
例えば我々自身が銀行口座の価値を見失っていた部分があります。PFM(個人財務管理)などは、銀行口座の情報をうまく生かしたサービスでした。「そこに価値があったか」という思いです。
ほかにも、日本には口座振替という画期的な銀行サービスがあります。この仕組みを使って新しい決済サービスが生まれたりしている。だったら我々自身が何かできるのではないか。そう思うわけです。
顧客が求めるサービスを、FinTech企業が手掛けている。こうした状況を放置するつもりはありません。当社に何ができるかを整理したうえで、顧客ニーズとのギャップを埋めにいきます。自前にこだわるつもりもありません。スタートアップ企業と提携するなり当社自身で開発するなり、ベストな手段を選択するつもりです。
一方で、地に足のついた施策に専念することも大事です。FinTech分野は少々過熱気味ですが、少し冷静にならないといけない。極端な例ですが、日本では金融インフラがほとんど完成しており、携帯電話で送金や出金・支払いができるMPESA(エムペサ)が社会インフラ化するケニアとは求められるサービスが当然異なります。
失敗と無駄は違う。海外を中心に様々なサービスが登場しているからといって、何でもかんでも反応していては、無駄な投資をしかねません。我々が手を出すべき領域かをしっかりと見極めるべきです。