伝統的な大企業にとって、パブリッククラウドの活用は簡単なことではない。新規事業のIT基盤としてパブリッククラウドは大いに役立つ。数多の新興企業が、パブリッククラウドを利用していることからこれは分かる。ただ、伝統的な大企業ではシステム開発も含めて業務の流れが決まっている。安易にパブリッククラウドを採用すると、業務の流れを混乱させてしまう。

写真●旭硝子の浅沼 勉氏(情報システム部 グローバルIT企画グループ 主席)
写真●旭硝子の浅沼 勉氏(情報システム部 グローバルIT企画グループ 主席)
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 かといって、パブリッククラウドに完全に背を向けるわけにもいかない。ITを活用した新しい領域のビジネスでは、伝統的な大企業と新興企業が真っ向からぶつかる。伝統的な大企業同士の競争でも、パブリッククラウドの上手な活用で効率的なITを実現した企業とそうでない企業では差が付いてしまう。

 こうした難題に挑んだのが、世界最大手のガラスメーカーである旭硝子だ。2015年8月からパブリッククラウド「Amazon Web Services(AWS)」の全面導入を進めている。既にファイルサーバーや一部の社内カンパニーの基幹系システムはAWS上で稼働している。

 同社のAWS活用戦略は「守りを固めるIT」と「攻めのIT」を分け、それぞれで異なる使い方をすること。AWSという一つのプラットフォーム上に、目的の異なる二つのITインフラを作る。守りを固めるITは「変えない」、攻めのITは「変える」がコンセプトとなる。

守りのITは「変化なし」を重視

 守りを固めるITとは、製造、販売管理といった基幹系システムのことだ。基幹系システムは刷新を繰り返しながら、何十年も前から運用を続けている。こうしたシステムは既に大規模になっており、開発、保守運用の流れを簡単には変えられない。旭硝子の浅沼 勉氏(情報システム部 グローバルIT企画グループ 主席)は「基幹系システムのアプリケーション開発、保守のチームから見て、インフラが従来と変わらず同じように使えるようにした」と言う(写真)。