当初の802.11規格では、無線フレームの設計として、イーサネットフレームのペイロード部分(最大1500オクテット)をそのまま格納する形をとっていました。このため、APや端末はイーサネットフレームを1つ送信する度に送信権(チャネルアクセス権)を取得する必要がありました。

 この設計は、11a/b/g規格においても踏襲されましたが、伝送速度の高速化に伴い、問題が顕在化してきました。データ部分に対してヘッダーやフレーム間ギャップ、確認応答(ACK)といったオーバーヘッドが相対的に大きくなってきたのです。

 例えば、11a/g規格において最大伝送速度(54Mビット/秒)を用いて、1500オクテットのデータを伝送する場合、理論上の最大実効スループットは30.8Mビット/秒となります。無線チャネルの利用時間に占めるデータ送信時間の割合(MAC効率)は、57.5%にとどまります

 11n規格の策定に当たり、「スループット100Mビット/秒以上」を目標に設定した時点で、既存の無線フレームの構成を見直す必要が出てきました。解決策として、1つの無線フレームに多数のイーサネットフレームを格納してデータ長を拡大し、ヘッダーやフレーム間ギャップのオーバーヘッドを減らして伝送効率を改善する仕様を導入しました。これは「フレーム集約」(フレームアグリゲーション)といいます。この仕様は11acでも必須機能として定義されています。

フレームを2段階で束ねる

 どのようにフレームを集約するのか見てみましょう(図1-8)1個のIPパケットは「MSDU」という単位に入れられます。さらに複数のMSDUは、1個の「MPDU」というデータにまとめます。このMPDUは、無線区間上の再送単位となります。MSDUをたくさん束ねれば、オーバーヘッドを減らせます。ただし、誤りが生じたときには再送データ量が増えてしまいます。

図1-8●フレーム伝送の効率向上のためにフレームを束ねる
図1-8●フレーム伝送の効率向上のためにフレームを束ねる
802.11n/acは、フレーム伝送のオーバーヘッドを減らして効率を向上するため、複数のフレームを束ねて送る「フレーム集約」(フレームアグリゲーション)という仕組みを備えている。
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 MPDUはさらに、「A-MPDU」という単位に束ねます。これに無線フレームヘッダーを付けたものが1個の無線フレームです。A-MPDUのどこかに誤りが発生しても、無線フレーム全体を再送するのではなく、誤りが発生したMPDUだけを再送すれば済みます。このように、MSDUとMPDUという2段階のフレーム集約が11n/acの特徴です