伝送速度の高速化や伝送効率の改善を実現する新技術の仕組みを解説していきます。高速伝送を実現する様々な物理層の要素技術を順に説明するほか、オーバーヘッドを減らして伝送効率を改善するMAC層の技術についても説明します。

伝送速度を高速化する3つの技術

 802.11無線LANの仕様は、無線信号の伝送を受け持つ「物理層」と、無線チャネルへのアクセスを制御するための「MAC層」という2つの部分に分けて規定されています。伝送速度の高速化は物理層で実現します。MAC層は、主に伝送効率の改善に貢献します。802.11acでは、物理層とMAC層の両方で図1-1に示される新技術を導入しています。また、11acで新規導入されたMU-MIMOはこれら2つの層にまたがる技術です。

図1-1●802.11acで導入された新技術
図1-1●802.11acで導入された新技術
主に物理層の新技術は伝送の高速化、MAC層の新技術は伝送の効率化を実現している。
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 11acの物理層での高速化は、「伝送帯域幅の拡大」「変調多値数の増加」「空間多重数の増加」──という3つの技術によって成り立っています。その原理を順に見ていきましょう。

周波数帯域幅を4倍に広げる

 11a以降の無線LAN規格は、11nや11acを含めて、「OFDM」という伝送方式を採用しています。これは、利用できる周波数幅を狭い帯域の「サブキャリア」に分割し、それぞれに信号を載せて送ります。こうした仕組みのおかげで、帯域幅を広げてサブキャリアの本数を増やせば、それだけ高速化できます。

 11n規格では、20MHz幅および40MHz幅のチャネルを定義しています。40MHzチャネルの場合、データの送信に使うサブキャリアの本数は108本です。これに対し11ac規格では、新たに80MHz幅および160MHz幅のチャネルを定義しました。サブキャリアの本数をそれぞれ234本および468本に拡大しており、11nと比べて最大伝送速度を2.17倍および4.33倍に拡張しています。隣のチャネルとの干渉を避けるために設けている「ガードバンド」にもサブキャリアを配置して、帯域幅の拡大以上の高速化を実現しました(図1-2)。

図1-2●周波数帯域幅を拡大してデータを載せるサブキャリアを増やす
図1-2●周波数帯域幅を拡大してデータを載せるサブキャリアを増やす
単に帯域幅を拡大するだけではなく、隣接チャネルへの干渉を避けるための帯域(ガードバンド)を減らすことで、データに使えるサブキャリアを増やしている。なお、この図はイメージを表しており、実際にはこれらのサブキャリアのうち、制御信号のためにデータ伝送に利用されないものも含まれる。
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