マイナンバー制度は複雑な仕組みだけに、まだ誤解も少なくない。最近では「従業員らのマイナンバーを収集・管理しなくても、罰則はないので何も対応しなくてもいい」という誤解が広がった。また、日本経団連は2015年11月に「個人番号の利用による官民データ連携」を要望する提言を公表したが、その内容はマイナンバーの制度からすると少し奇妙に思えるものだった。真相は何なのか。関係者に聞いた。

「罰則がないから何もしなくていい」?

 「最善の対策は何もしないこと」。インターネットでは2015年11月ごろから、企業のマイナンバー対応について、こんな趣旨の書き込みが増えた。「従業員からマイナンバーを集めなくても罰則はない」という内容が発端になったようだ。

 マイナンバー制度では、企業は従業員や扶養家族らのマイナンバーを厳格な本人確認とともに取得して、給与所得の源泉徴収や社会保険の被保険者資格取得届などに記載して行政機関に提出する必要がある。

 しかし、記載しない場合は一体どうなるのか?

 国税庁は「国税分野のQ&A」で、全員がマイナンバーを持つとは限らないとして、「マイナンバーの記載がないことをもって、税務署が書類を受理しないということはない」と説明。個人番号の記載は法律(国税通則法、所得税法など)で定められた義務であると伝えて提供してもらうことを求めている。

 社会保障分野については、厚生労働省の「雇用保険業務等における社会保障・税番号制度への対応に係るQ&A」(9月14日版)において、「個人番号を記載しなかった場合や誤りがあった場合の罰則規定は、雇用保険法上設けられておりません」と説明する。国民が社会保障や税に関する手続きをする際の負担の軽減や行政事務の効率化を図るために、マイナンバーの記載は法律で求められている努力義務だとしている。

 内閣官房が2015年11月に公表した「よくある質問(基礎編)」も、企業向けのQ&Aの「マイナンバーの提供を拒まれた場合、どうすればいいですか」という設問で、社会保障や税の決められた書類にマイナンバーを記載することが法令で定められた義務であることを周知し、提供を求めるとしている。それでも提供を受けられないときは提供を求めた経過などを記録、保存を求めている。

 これだけ読めば、確かに「罰則」はない。