IT部門人材の量的な不足感は慢性化しており、目の前の仕事に集中する傾向が強まり、IT部門内ですらコミュニケーションを図る機会は極端に少なくなっている。結果として、隣のチームが何を担当しているかを全く知らないといった閉塞的な環境とコミュニケーションの欠如を生み出し、人材育成においても負のスパイラル効果を及ぼしている。

目の前の仕事をこなすITスキルの獲得

 ほとんどの企業のIT部門において、人材不足の対処法は、従来ながらの新卒採用や中途採用である。企業としての人材育成の最優先事項とは、「今の仕事をこなすのに必要なスキルを身につけること」となる。配属された新卒採用や中途採用者の初年度のキャリア達成目標として、現行業務を遂行するために必要なITスキルの習得が掲げられる。この時点においては、どの人材も目標達成に向けて一生懸命に取り組み、一定の育成効果が認められる。

 しかし、現行業務を維持するためのITスキル習得のみが重視されると、対面でのコミュニケーションの能力を軽視することにつながる。例えば同じチーム内で、かつ隣に座っている同僚に対してもメールで業務連絡するといったケースが見受けられる。

 このような部署では、人がいるオフィスであるにもかかわらず、サーバールームと変わらない静けさを保つ。ほとんどのIT部門において、PDCAサイクルのうちD(Do)が最も重視されるのは、IT部門が効率性を求めた縦割り組織で業務を遂行した結果ともいえる。

 システム運用・保守ならば、企業の現行の業務オペレーションを把握することができるはずだが、日常業務に忙殺され、他部署とのコミュニケーションが断たれた状態だ。

 例えば運用・保守業務の一つであるデータパッチ(データ修正作業)においては、指示事項に対して、いかに正確かつ迅速に実行するかということが重視され、指示の理由をヒアリングすることも、根本原因を追究することもない。そのため、システム開発・導入の下地となるナレッジや、現場の課題認識がIT部門に一向に蓄積されない。