「異動ですか?」。システム開発プロジェクトの途中で責任者が異動になる。通常では有り得ないことだが、起きてしまった。

 2003年7月のことである。私は勤務先のサービス企業で、Webを使った座席予約システムの開発を始めた。開発期間は半年、12月にカットオーバーさせる予定だった。

 ところが開発を始めてしばらくして、会社の中に大きな動きがあり、異動の話が突如持ち上がった。意外にも異動先は営業部門だった。情報システムの仕事しか経験がない私に「一度は営業現場を経験させよう」といった声が経営陣から出たと聞いた。

 もともとソフトハウスでSEやプログラマーをしていた私は派遣の仕事に嫌気が差し、現在も勤務しているサービス業に転職した。ベンダー企業からユーザー企業に移ったわけだが、情報システムの仕事は続けていた。

 システム以外の仕事がしたかったから転職した私にとって営業マンになることは新たなチャレンジであり、わくわくするところもあったが、さすがに時期が問題だった。やはりシステム開発の途中の異動には無理がある。

 しかし、全社の大きな動きの中で私だけを例外にはできなかったらしく、2003年9月、異動になった。39歳にして初めて、情報システムと無縁の仕事に就いたことになる。

 内示から異動まであっという間だった。営業マンになり、担当顧客を持たされ、顧客を回る日々が始まった。取りかかったWeb予約システム開発の半ばで異動したが、開発を放り出す訳にはいかない。営業部門に所属しつつ、引き続き、私が開発の面倒を見ることになった。

 昼は慣れない営業の仕事で気を遣いながら汗を流し、夜になると開発現場に戻る日々が続いた。今振り返ると、肉体的にも精神的にもきつかったという記憶しか出てこない。情けない話だが、私の都合に合わせて開催された夜遅くの打ち合わせで“落ちた”こともあった。回りから「聞いていますか?」と問いかけられ、意識が戻ったことが何度かあった。

 それでもなんとか予定通り、2003年12月にWeb版の座席予約システムを作り上げ、稼働させた。9月から12月まで約4カ月、営業と開発を兼任していたわけだ。

 兼任で心身ともに疲れたせいなのかどうか分からないが、カットオーバー直後の2004年1月、自動車事故を起こしてしまった。営業の仕事で車を運転していた際、一瞬、居眠りをしてしまったのか、気付いた時には前方を走っていた大型トラックの後部に突っ込んでいた。

 トラックの運転手も私も怪我が無かったが不幸中の幸いだったが、その時運転していた自動車の前半分がぺちゃんこになり、当時の上司からこっぴどく怒られた。

Webシステムの構築話は突然、浮上した

 営業をしながら作り上げたWeb版の座席予約システムは、個人顧客、それもやや年齢層の低いお客様を獲得する際に大きな力になった。個人のお客様に好まれる催しについて今日ではWeb経由の予約が主流になっている。