2015年11月10日、国内で4年ぶりに開催されたアイデンティティ(ID)技術イベント「OpenID Summit Tokyo 2015」では、1つのIDで複数企業のサービスにログインしてデータをやりとりできる「ID連携」が、ポータル事業者やSNS事業者、通信事業者を中心に着実に普及していることが実感できた。

写真1●OpenID Foundation 理事長の崎村夏彦氏
写真1●OpenID Foundation 理事長の崎村夏彦氏
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 「既に約10億人のユーザーがOpenID Connectを使っている」と、ID連携仕様の標準化団体OpenID Foundation 理事長の崎村夏彦氏は語る(写真1)。

 OpenID Connectは、ユーザーの同意のもとでアイデンティティ情報、つまりログイン認証の結果やユーザーの属性情報(パーソナルデータ)を流通させるためのID連携プロトコルである。あるサイトのIDを使って別の様々なサイトにログインする認証連携サービスの多くで採用されている。米グーグルや米マイクロソフト、米ペイパル、米ヤフーなどが規格策定に参加しており、グーグルは2015年4月に旧規格であるOpenID 2.0のサポートを終了、OpenID Connectに完全移行した。

 2014年2月に仕様が公開されたOpenID Connectは、OAuth 2.0のAPI認可機能を取り込んだ結果、APIを通じたデータ連携をより安全に実施できるようになった。複数のITサービスが、APIを通じて結びつく「APIエコノミー」の基礎となる仕様といえる。

ID連携がビジネスの基盤に

 ID連携を、B2Cビジネスの要としてフル活用しているのがKDDIだ。「auかんたん決済」「auスマートパス」「au WALLET」など、au IDをベースに社内・社外のサービスを連携させている。au IDのアカウント数は現時点で2500万IDを超えており、同社の重要なビジネス基盤に成長している。

 KDDIは2015年11月10日、OpenID Foundationの理事企業(ボードメンバー)に、国内通信事業者として初めて就任することを明らかにした。今後、グーグルやマイクロソフトといった他のボードメンバーと共に仕様策定などに取り組む。

写真2●ヤフー ID連携 黒帯 決済金融カンパニーの倉林雅氏
写真2●ヤフー ID連携 黒帯 決済金融カンパニーの倉林雅氏
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 Yahoo! JAPAN IDとして3000万ID以上のアクティブユーザーを抱えるヤフーは、2012年11月にOpenID Connectのドラフト仕様をいち早く採用、同IDを使って他のサービスにログインできるサービス「YConnect(現在はYahoo! ID連携に改称)」を始めた。「世界の大手ID提供企業の中でも早期の取り組み」と、ヤフー ID連携 黒帯 決済金融カンパニーの倉林雅氏は語る(写真2)。現在では「T-SITE」「My Softank」「Ameba」「セブンネットショッピング」などを含め、採用企業は200社以上に拡大した。

 逆に、外部のIDを受け入れる試みも始めている。2015年10月にソフトバンクモバイルのスマートフォンからYahoo! ショッピングなどYahoo! JAPANのサービスに自動ログインできる「スマートログイン」が始まった。ソフトバンクの携帯回線で認証することで、パスワード入力を不要にした。ID連携にはやはりOpenID Connectを用いている。

 ヤフーは今後、ログイン認証の代行から一歩踏み出し、属性データの連携に本腰を入れる考えだ。例えば外部サイトの会員登録の際に、Yahoo! JAPAN IDに登録済みのデータでフォームを補完できるようにすることで「会員登録画面でのユーザーの離脱を防止できる」(ヤフーの倉林氏)という。