長らく続いた円高不況に苦しみ、国内生産では価格競争力を維持できなくなった製造業の多くが、生産拠点を国内から海外へとシフトさせた。安い人件費を求めて中国や東南アジアに新工場を立ち上げ、為替変動の影響を受けにくい現地生産を拡大させた。
そんななか、あえて国内にとどまったメーカーもある。そこでは人手に頼らずロボットを多用し、ITと製造ビッグデータを駆使して、きめ細かくラインを制御。限られた人員で生産性と品質を高めることに挑んだ。それが今の円安局面で強みに変わった。
日産車体の100%子会社で、九州に生産拠点を構える日産車体九州もその1社。年間生産台数12万7000台(2014年度の実績)の7割を海外に輸出する同社は、「日本で作って世界で売る」ものづくりをロボットと共に実践している。まずは、同社の最新の取り組みを見ていこう。
日産車体九州の工場では、500台以上のロボットが毎日黙々と“働いて”いる(図1)。そのほとんどが車の骨格となるボディーを組み立てる「車体溶接工程」に集中。合計466台のロボットがラインの両サイドにズラリと並び、「シャトル」と呼ぶ台車がラインを流れてくると、一斉に組み立てに取りかかる。その光景は壮観だ。
ラインが進むにつれて、車の床となるフロアーパネルやドアを支えるサイドボディーパネル、ボンネットとなるフードパネル、天井のルーフパネルなどが、次々と組み付けられていく。
ロボットは1台ごとに違う車を作る
一見すると、ロボットは同じ作業をひたすら繰り返しているかに見える。だがラインが進むにつれ徐々に組み上がっていく車の外観を見ると、決してそうではないことに気づく。ラインには、外観の異なる車が常に混在して流れているのだ。
例えば、ハイルーフ仕様のワゴン「NV350キャラバン」の後ろにSUV(スポーツ・ユーティリティー・ビークル)の「パトロール」が続き、さらに後方からは標準仕様のワゴン「NV350キャラバン」、その後ろからはSUVの「インフィニティQX80」が来るといった具合だ。