国内の大学においてノートパソコンの必携化が進む中、米国においては既にノートパソコンは学生にとって必須のツールであり、それらを利用する「ICT環境の整備が大学の競争力に直結する」と米クレムソン大学で副学長およびCIOを務めた現・教授のジェームス・R・ボタム氏は述べる。今回の「教育ICT現場のリアル」では、同氏に米国の大学における情報リテラシー教育や同大のICT環境などを聞いた。

(聞き手は大谷 晃司=日経BP総研 イノベーションICT研究所)



米クリムソン大学教授(前副学長・CIO) ジェームズ・R・ボタム氏。CIOとして米パデュー大学や米クリムソン大学でHPC(高性能コンピューティング)の導入などを主導した。
米クリムソン大学教授(前副学長・CIO) ジェームズ・R・ボタム氏。CIOとして米パデュー大学や米クリムソン大学でHPC(高性能コンピューティング)の導入などを主導した。
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日本ではスマートフォンの普及からパソコンのキーボード操作が苦手な学生が増えているといわれています。米国ではどうでしょうか。

 (米国では)まだそういうことは起きていない。米国の大学の場合、多くはラップトップ(ノートパソコン)が必須になっている。

米国の大学でも情報リテラシー教育の中でオフィスソフトの使い方といったことを教えているのでしょうか。

 そういった環境は整備している。全米の大学の多くが米マイクロソフトとライセンス契約を結び、「Office 365」を利用している。クレムソン大学ではそれだけでなく、米アドビと15の学部がそれぞれサイトライセンスを結び、(サブスクリプション型で「Photoshop」や「Illustrator」などのアプリが使える)「Creative Cloud」を導入している。

 ボタム氏は2006年7月から2016年8月までクレムソン大学の副学長およびCIOを務め、学生の専攻に関わらず、デジタルツールを駆使した学びができるラーニングコモンズを開設。同氏が最先端のITインフラ、HPC(高性能コンピューティング)の利用環境の整備などを主導した。ラーニングコモンズとは、文部科学省の定義によると「複数の学生が集まって、電子情報も印刷物も含めた様々な情報資源から得られる情報を用いて議論を進めていく学習スタイルを可能にする『場』を提供するもの」である。

クレムソン大学は工学系に強い大学だと聞いています。そうした背景があってデジタルツールの利用環境を整備したのでしょうか。

 答えはノーだ。教養系、社会科学専攻などを問わず、学生が企業に採用される際にこうしたデジタルツールを利用するスキルが有利に働くことが、一つの要素になっている。Creative Cloudは、学生が“ストーリーテリング”する際に有用であるという結果が出ている。

 技術系の学生であれば、問題を解決するに当たって、そのことを説明しなければならないし、データも活用しなければならない。仮説を打ち立てなければならない。そういった際に利用する。また研究費の資金を調達する際にも有用だ。実際、研究するに当たっては資金を調達しなければならず、その際の提案書作りにこうしたツールを利用し、資金を出してくれるところ、例えばNSF(National Science Foundation)や省庁などに対して訴えかけなければならない。ストーリーを的確に伝えることが資金を出してもらえることにつながる。