2016年4月に開校した学校法人角川ドワンゴ学園が運営するN高等学校(N高)。単位制の通信制(広域)高等学校で、当初から“ネットの高校”を掲げ、ICTの利活用を前提とした授業を展開する。

 N高はネットだけでなく、リアルな場で学ぶ通学コースも用意している。そこでも最新のICTツールを駆使している。2017年度の同校入学式では、生徒がホロレンズを着用して式典に臨んだ。このホロレンズはこうしたイベントだけでなく、実際に通学コースの授業で用いる予定だ。ちなみに入学式で使用したホロレンズは75台。全てドワンゴで購入したという。

 ただし、ホロレンズは狭い空間で数人が共有するような用途には向くが、広いホールなどに集まって多くの人が同じものを見るといった用途は想定していないという。そこで同社は、標準の共有機能にはない独自の機能を実装。複数人が広い空間でコンテンツを共有できるMR(複合現実)システム「DAHLES」を開発し、教室での授業などで利用できるようにした。このシステムのお披露目の場が2017年度の同校入学式だった。

 同システムを開発した基盤開発本部マルチデバイス企画開発部先端演出技術開発セクション セクションマネージャの岩城進之介氏は、ホロレンズ導入の利用を次のように話す。「VRを教育に使えればとても良い効果が得られると思っていたが、VRだと視界を全部塞いでしまい、完全に作り込まれた世界の中でしか使えない。ホロレンズは現実空間にバーチャルなオブジェクトを距離感を持って表現できる。これはN高に向いたメディアだと考えた」。

写真1●ホロレンズを通して見たMR(複合現実)の例
写真1●ホロレンズを通して見たMR(複合現実)の例
(出所:ドワンゴ)
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 ホロレンズは当初は東京の講義を大阪で聴講するといった遠隔授業に用いる予定だ。利用シーンの分かりやすい例としては、3次元の分子構造の閲覧などが挙げられるが(写真1)、「本当にやりたいのは距離感を取り入れること」だと岩城氏は述べる。「画面があって、その画面で先生が話しているのを聞くのではなく、多少画質が落ちようとも、『ここに先生が立っている』という姿が見えて、そして『先生も自分を見ているんだ』という感覚を得ることで授業は変わると思う」と語る(写真2)。

写真2●MR(複合現実)であたかも教師が同じ教室にいるような遠隔授業も可能に
写真2●MR(複合現実)であたかも教師が同じ教室にいるような遠隔授業も可能に
(出所:ドワンゴ)
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 まさにこれは対面授業そのものだが、対面授業は物理的な制約があるためスケールしない。さらに時間帯もシフトできない。一方でネットだとどうしても画面を一枚隔てることになる。MRのシステムを使えば、「対面の感覚を残しながらスケールする授業をできるのではないか」と岩城氏は述べる。現状は通学コースでの利用に限定されるが、将来的にホロレンズのようなデバイスが普及すれば、ネットの授業でも活用されるかもしれない。