2016年4月に開校した学校法人角川ドワンゴ学園が運営するN高等学校(N高)。単位制の通信制(広域)高等学校で、当初から“ネットの高校”を掲げ、ICTの利活用を前提とした授業を展開。最新ツールの導入にも熱心だ。

 2016年度の入学式では韓国サムスン電子のヘッドマウントディスプレイ「Gear VR」を、2017年度の入学式では米マイクロソフトの「Microsoft HoloLens」(ホロレンズ)を装着した生徒が、東京会場にいながらにして沖縄本校の式典に“参加”した。2017年度の入学者数は昨年度を上回る2002人。生徒数3782人(2017年4月時点)の“マンモス校”となった同校は、どのような学びの環境を提供しているのだろうか。同校ならではの教育システムを見ていこう。

課外授業にドワンゴの技術を注ぎ込む

 N高では、高校卒業資格を得るための必修授業を「Basic Program」と呼び、主に映像授業を活用したネット授業と、年5日程度のスクーリングで構成している。ネット授業とはいっても、必修授業にドワンゴがオリジナルの教材やシステムを提供するわけではない。東京書籍の「教科書授業インターネット講座」を利用し、同社の検定教科書を使用する。つまり、ここだけを見ると他のネットを利用する通信制高校と大差ない。

写真1●ドワンゴ 教育本部 コンテンツ開発部 部長の今野寿昭氏(左)と、ホロレンズを用いるMR(複合現実)システムを開発した基盤開発本部 マルチデバイス企画開発部 先端演出技術開発セクション セクションマネージャの岩城進之介氏
写真1●ドワンゴ 教育本部 コンテンツ開発部 部長の今野寿昭氏(左)と、ホロレンズを用いるMR(複合現実)システムを開発した基盤開発本部 マルチデバイス企画開発部 先端演出技術開発セクション セクションマネージャの岩城進之介氏
(撮影:大谷 晃司)
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 では、何が違うのか。ドワンゴ教育事業本部コンテンツ開発部 部長の今野寿昭氏は次のように述べる(写真1)。「ドワンゴがやるからには、新しいネット授業のシステムを作りたい、それをやらないと意味がない」。だが、高校卒業資格を得るための必修授業は、学習指導要領によって定められており、検定教科書を使って進める必要がある。そこに独自性を持ち込むのは難しい。今野氏は次のように続ける。

 「多くの通信制高校は高卒資格を与えるだけの存在になっている。生徒が卒業した後の、生徒の将来につながるようなことを教えなければならないとの思いがあった。それを『課外授業』と名付け、ドワンゴが一から教育システムを作り、コンテンツも自ら作って、これをN高の価値にしていこうとなった」

 N高の課外授業は必修授業のBasic Programに対して「Advanced Program」と呼ばれ、高校卒業資格を得るための単位にはならないものの、N高生であれば誰でも受講可能だ。2016年度に入学したN高生の約70%が受講したという。一部の講座はN高生以外にも提供されている。課外授業はネットで学習する講義とリアルの体験を伴うものの2種類あり、前者のシステムにドワンゴがこれまでのサービス開発で培ってきた技術が注ぎ込まれている。