「自分で遊びを作る側の人になってほしい。君たちが大人になるころには、プログラミングでなんでもできるようになる。プログラミングを好きになってほしい」。卒業を間近に控えた小金井市立前原小学校の6年生児童に対して、ハックフォープレイ代表取締役の寺本大輝氏はこう呼びかけた。2017年3月10日、同校で実施されたプログラミング授業での一コマだ。寺本氏はゲームを通してプログラミングを学べる「HackforPlay」の開発者であり、IPA(情報処理推進機構)が認定する2015年度「未踏スーパークリエータ」の一人である。

写真1●小金井市立前原小学校6年生の「HackforPlay」を使ったプログラミング授業の様子。ハックフォープレイ代表取締役の寺本大輝氏が各教室を回ってアドバイスする
写真1●小金井市立前原小学校6年生の「HackforPlay」を使ったプログラミング授業の様子。ハックフォープレイ代表取締役の寺本大輝氏が各教室を回ってアドバイスする
(撮影:大谷晃司、以下同)
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 今、小学校の現場でプログラミングに関する様々な取り組みが始まっている。背景にあるのは3年後に迫ったプログラミング教育の必修化だ。文部科学省は2017年2月14日に小学校の次期学習指導要領案を公表。「プログラミング的思考」を育むことを目的にプログラミング教育の必修化を掲げた。小学校の次期学習指導要領は2020年度に全面実施となるが、2018年度から先行して実施可能となる。

 こうした流れの中、いち早くプログラミング教育に取り組んでいる小学校の一つが、小金井市立前原小学校である。同校の松田孝校長は、前任の多摩市立愛和小学校の校長時代から授業でのIT機器活用やプログラミング教育を実践しており、総務省のプログラミング教育事業推進会議の委員も務める。冒頭の寺本氏は、そんな松田校長の下、前原小が実施するプログラミング教育そしてキャリア教育の一環として招かれたのだ。

ゲームをクリアしながらプログラミングを身に付ける

 寺本氏はまず6年生全員の前で、プログラミングとの出会いなどを語った。この講演に先立ち同校6年生の児童は事前に寺本氏が登場するYouTubeの動画を見て、それに対する感想を提出している。感想の提出にはWebブラウザで協働学習などができる学習管理システム「schoolTakt」を活用。寺本氏は児童の感想を事前に読んだ上で、そして児童は事前に寺本氏を知った上で、講演に臨んでいる。そのためか寺本氏の呼びかけに対し、児童は活発に返答していた。同校では、こうした講演にもITを活用していることが分かる。

写真2●前原小の6年生児童を前にプログラミングを始めたきっかけなどを語る寺本氏。左は前原小の松田孝校長
写真2●前原小の6年生児童を前にプログラミングを始めたきっかけなどを語る寺本氏。左は前原小の松田孝校長
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 児童の感想を事前に読んだ寺本氏は、同校の児童に対して「さすがだなと思った」と述べる。そもそも寺本氏自身は小学生時代、プログラミングという言葉を知らなかったという。それがいまや小学生の段階で「プログラミングに興味を持っている(と感想を書いた)子どもがいる」。寺本氏は自分が最初にプログラミングに触れたのは高等専門学校の授業で、16歳の時だったと語る。その時楽しいと感じたことが、「ゲームを遊ぶようにしてプログラミングの楽しさに気付ける」をコンセプトに開発されたHackforPlayにつながっているという。

 HackforPlayはゲームのステージをクリアしていくことで、プログラミングを体感し、自然とプログラミングが身に付くように作られているという。例えば“ラスボス”を倒す際、そのステージのコードの中にある数字の部分を書き換えてRUNボタンを押すと、HP(ヒットポイント)が増えたり、自分の位置を変えたり、といったことができるようになる。HackforPlayでは、コードをいじって自分でゲームの進行を変えられるのだ。

 最終的には自分でゲームのステージを書き換えて、新しいゲームを作れる。しかもそれを公開して他の人に遊んでもらえる。寺本氏はそんなプラットフォームがHackforPlayだと説明する。既に1500ものゲームが小学生によって公開されているという。こうした話を聞いた後、児童は各クラスに分かれてHackforPlayを使ったプログラミング授業に臨んだ。