「イノベーションとは何か」と問われて「技術革新」と答えるようではまだまだ修行が足りない。イノベーションとは「無価値なものを価値あるものにする活動」だと言ってよい。そしてこの命題を真として受け入れたら、イノベーションを意識的に引き起こす道が大きく開く。その道へと私たちの背中を押してくれるのが「四つのアクション」である。

 今回はイノベーションと四つのアクションに言及して、イノベーションを自在に引き起こす方法について考えたい。

そもそもイノベーションとは何か

 まずはイノベーションの話からである。イノベーションはよく「技術革新」と訳される。もちろんこれでも間違いではないのだろうが、本来のイノベーションが持つ意味からはかなり距離がある。具体例でその理由を説明しよう。

 サイラス・マコーミックは、アンドリュー・カーネギーやヘンリー・フォードと並ぶアメリカの実業家で、農作物の刈り取り機会社を国際的な企業に成長させたことで有名だ。3人に共通するのは、労働集約的な作業の大規模工場化、さらには組み立てライン化へと発展させた点だ。

 これらの取り組みもイノベーションだったのだろうが、注目したいのはマコーミックが採用した販売手法である。マコーミックが開発した画期的な刈り取り機を利用すれば、農民の収穫は確実に向上する。

 しかし貧しい農民にはこの機械を購入する資金がなかった。そこでマコーミックは、手元に現金がない農民でも購入できるように、割賦販売方式を採用したのである。これにより農民は未来の稼ぎをあてにして刈り取り機を手に入れられ、しかも生産を飛躍的に向上させることに成功した。

 割賦販売はハードウエア特有の技術革新ではない。しかし農民の生産高を飛躍的に押し上げたのだからイノベーションと言えるだろう。このようにイノベーションは技術のみならず「仕組み」からも生まれるのであって、この一点からだけでも、「イノベーション=技術革新」が不適切なのは明瞭だろう。

 では、そもそもイノベーションとは何か。私は「情報通信の歴史に見る破壊的イノベーション」というテーマの講義を大学で行う機会がある。その際、学生に繰り返して述べているのがイノベーションのシンプルな定義である。私はイノベーションを次のように定義している。

無価値なものを価値あるものにする活動

 これがイノベーションの本質だ。「活動」と言い切ったが、活動から生まれた結果も指すと考えてもらいたい。また上記をイノベーションの積極的な定義とすると、消極的には次のようにも言える。

価値の低いものをより価値の高いものにする活動

 もっとも後者の定義の場合、当初に比べてどの程度まで価値が高まればイノベーションと呼べるのか基準が曖昧だ。そのためスッキリして分かりやすいのは、やはり前者の積極的な定義だろう。

 では、上記の定義からイノベーションの一例を考えてみたい。現在、代替エネルギーとしてバイオマスエネルギーに注目が集まっている。典型的なバイオマス資源としては、稲刈りをした後のワラや家畜の糞尿、微細な藻類などがある。