発散思考と集束思考は、ビジネス文書はもちろんのこと、記事や本を書く際にも欠かせない技法である。少々楽屋裏の話になるが、私は本を執筆する際に、発散思考と集束思考を意識的に繰り返している。どういうことか具体的に説明したい。

文書の作成に発散思考と集束思考を活用する

 そもそも完成した書籍や記事、あるいはビジネス文書の背後には「時間」が存在する。例えば書籍を考えた場合、「はじめに」から始まって「第1章」「第2章」「第3章」……「最終章」へと進む。

 読者は第1章と第3章を同時に読むことはできない。「はじめに」「第1章」「第2章」へと順に読み進むのが一般的なスタイルだ。もちろん読み進む間に時間は経過する。従って書き手としては、読み手が体験する時間の経過を念頭に、読み手の理解が進むように情報を配置するよう配慮する。

 つまり書籍に掲載する情報は、時間軸に沿って線的(リニア)に配置されなければならない、ということだ。これは書籍に限らず一般的なビジネス文書、プロポーザル(企画、提案)文書でも同様である。

 ところが私たちがいざ文章を書こうと思ったとき、頭の中にある情報は線的に配置されておらず、曖昧模糊(もこ)とした考えが非線的(ノンリニア)に存在するのが一般的だ。この無秩序な情報を読み手の時間軸に沿って適切に配置する。言い換えるならば筋が通るようにする。これが「書く」という作業にほかならない。

 しかしながら頭の中にあるノンリニアな情報を、たった一度で始めから終わりまで完璧なリニア状態にするのは非常に難しい。「はじめに」から書き始めて半ばまで進んだとき、話の筋道が破綻していることに気が付く――。多数の文書を作成してきたIT専門家ほどこのような経験を多くしているはずだ。

 「もっと効率的な書き方は存在しないのだろうか――」

 全ての文章の書き手にとって、この点は切実な問題に違いない。実はその際に活用すべきなのが発散思考と集束思考の繰り返しなのである。

 この書き方では、頭の中にあるノンリニアな情報を、いきなりリニアな情報に転化するという従来の書き方を使わない。そうではなく、まず頭の中にあるノンリアな情報をノンリニアのままはき出すのである。より具体的に言うと、書きたいこと、書かなければならないことが頭に思い浮かんだら、それを次々と列挙するわけだ。

 その際に情報の前後関係など全く考慮しない。とにかく頭に浮かんだことを無批判に列挙する。従って、この作業はまさに発散思考を前提にしたものだ。

もの書きには欠かせないアウトライン発想法

 とはいえ、書きたいこと、書かなければならないことを列挙していると、いずれネタも尽きるだろう。そうしたら思考モードを集束思考に切り替える。

 この段階では、列挙した情報の前後関係を検討して、読み手の時間軸を念頭に、どのように情報を配置すれば理解を促せるかを考える。その上で情報を並べ替えて、列挙した情報に筋を通すよう努めるのである。