ジェームス・W・ヤングは、アイデア発想のプロセスを、「(1)資料の収集」「(2)資料のそしゃく」「(3)問題の放棄」「(4)ひらめき」「(5)アイデアの検証」という5段階で説明した。しかし、締め切りが迫る私たちとしては、「(2)資料のそしゃく」の段階で、意図的に「既存の要素の新しい組み合わせ=アイデア」を発見できれば、これに越したことはない。

 そもそもアイデアの発想について研究する創造性開発の分野では、偶然のひらめきに頼るのではなく、意図的にアイデアを発想する技法について考えてきた。恐らくその中で最もポピュラーなのは「ブレーンストーミング(通称「ブレスト」)」だろう。IT専門家ならば誰しも一度は実践したことのある発想技法のはずだ。

 実際ブレストは、ヤングが言う「問題の放棄」以前に、斬新なアイデアを発想するための最強の手法になろう。しかしながら、この最強の手法は世間に広く知られているにもかかわらず、その誕生の経緯やルールについては、明確な共通認識が成立していないように思う。

アレックス・オズボーンとブレーンストーミング

 ブレーンストーミングの有用性を世間に広く喧伝したのは、米国の著名広告会社バッテン・バートン・ダースティン・アンド・オズボーン、略してBBDO(多分こらちの名称の方が一般的だろう)の社長を務めたアレックス・オズボーンである。著作『創造力を生かせ』(創元社)の中で「ブレーンストーム会議」と称して公開したのがその始まりだ。

 オズボーンがこの「ブレーンストーム会議=ブレーンストーミング」を初めて実行したのは1939年のことだった。今から70年以上も前、太平洋戦争以前の話である。そのオリジナルの手法とは次のようなものだった。

【参加者】
 会議への参加人数は5~10人程度とする。
【テーマ】
 発想テーマはできる限り的を絞ったものとする。
【手法と留意点】
 テーマを絞り込んだ問題に対して参加者が自由に意見を述べる。その際に、次の4点を厳守する。
 (1)判断力は排除する(他人のアイデアを批判しない)。
 (2)乱暴さが歓迎される(突拍子もないアイデア大歓迎。思い切った提案をする)。
 (3)量が必要である(質よりアイデアの量を目指す。量はやがて質に転換すると心得る)。
 (4)結合と改良が大切である(アイデアを組み合わせる。人のアイデアを改良する)。

 これがオズボーンの考案したブレーンストーミングの原形である。そして、この基本ルールは現在でも変わりはない。しかし、上記の基本ルールを念頭にブレーンストーミングを実践している組織がどれくらい存在するのだろうか。

 ブレストと言いながら「そのアイデアではターゲットにリーチしないよ」とほかのメンバーのアイデアを批判するリーダーはいないか。あるいは、ブレストの最中に人が出したアイデアを改良して、より良いアイデアを前向きに創造しようとしている人がどれほどいるだろうか。

 要するに、「ブレスト=誰もがやっていること」と考えがちだが、基本のルールに忠実なブレストは、実はそれほど実行されていないのが現状だと思う。ならばこの機会に、再度、ブレストの基本に立ち返ってみよう。その上で再びブレストに挑めば、「既存の要素の新しい組み合わせ」を発見できる可能性は格段に高まるに違いない。