「締め切りが迫っているのにアイデアが浮かばない!」――。

 毎回こんな崖っぷちに立たされているIT専門家は多いのではないか。そんなご同輩は「アイデアが浮かばない!」と独り悩み苦しむたびに、「もっと効率的にアイデアを発想する決め手はないものか」とため息をついているはずだ。

 斬新なアイデアを「絶対」に作り出せる鉄壁の方程式──。

 残念ながらそんな黄金律を私は知らない。しかし斬新なアイデアを作り出す可能性を限りなく高める手法は確実に存在する。以下、ITの専門家ならばぜひ知っておきたい極上のアイデア発想手法について解説したいと思う。

アイデアは既存の要素の新しい組み合わせ

 アイデアとは、直面する問題を解決するための方策の一つであり、中でもより問題解決力が高いものを指す。そして優良な問題解決策を次々考案する人のことを私たちは「アイデアマン」と呼ぶ。

 とはいえそのアイデアマンにアイデアの源泉を尋ねても、「何となくちょっとした思いつき」とか「天啓かな」とか多くは答えをはぐらかされるのではないのか。そのためだろうか。私たちは一般的に「アイデアは無から生まれる」と考える傾向があるように思う。そして多くの人は、「アイデア発想=何か難しい作業」と怖じ気付いてしまう。

 しかしながら、アイデアの発想とは無から有を作り出す行為ではない。そもそも無から有を生み出すのは錬金術よりも難度が高い。なにしろ錬金術師でさえ身近な物質、つまり既に存在するものを黄金に変えようとしたからだ。決して無から何かを作り出そうとしたわけではない。

 実はアイデアが豊かな人になるためには、この「アイデア発想=無から有を作り出す行為」が誤解であることを理解すること、この点が第一歩になると言ってよい。ならばそもそもアイデアとは何なのか。この点については、世界屈指の広告会社である米J・W・トンプソン(ジェイ・ウォルター・トンプソン)で副社長を務めたジェームス・W・ヤングが極めて的確な定義をしている。

アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何者でもない
ジェームス・W・ヤング『アイデアのつくり方』(CCCメディアハウス)

 私事ではあるが、実は20年以上前、私はヤングのこの一節を読んで大きな衝撃を受けたことがある。というのも、当時の私は漠然と「アイデアは無から生まれる」と考えていたからである。いわばヤングの主張は私の常識を逆立ちさせたようなものだったわけだ。

 しかし冷静になって考えてみると、アイデアを発想するには前提が存在するではないか。それは問題であったり課題であったりする。そして問題や課題は何らかの構造を持っていて、その背景にはそれらが生じた要因がある。つまり問題が存在すること自体からして全く「無」ではない。そこにあるのは「有」なのである。

 ただ、現状を変えずにそのままの状態にしていたら、何も問題は解決しないだろう。そこで私たちは現状の有り様を変えて問題を解消しようとする。つまり、現状としてある既存の要素を新しい組み合わせに変えるわけだ。例えば不満足な現状に、新しい要素を付け加えてみるとか、あるいは既存の要素を取り除いてみるとかする。