ダニエル・カーネマンは、エイモス・トヴェルスキーと共同で発表した「プロスペクト理論」によりノーベル経済学賞を2002年に受賞した。いまやプロスペクト理論は行動経済学の基礎理論であり、斬新な発想の着眼点として利用価値は非常に高い。

行動経済学の基礎理論「プロスペクト理論」とは何か

 前回、ピークエンドの法則の提唱者としてダニエル・カーネマンの名を挙げた。実はカーネマンの名は、ピークエンドの法則よりもむしろ「プロスペクト理論」の提唱者として有名だ。

 プロスペクト理論は、不確実性下において人はどのような予測を立てて行動するのかを説明したものだ。認知心理学者だったカーネマンが、同僚のエイモス・トヴェルスキーとともに提唱した。2人はこの理論を心理学ではなく経済学の論文誌「エコノメトリカ」に発表する。1979年のことだ。

 画期的だったのは、この理論を活用することで、いくつもの経済学的アノマリー(矛盾)を上手に説明できる点だ。これに気づいた経済学者の間で大きな反響を呼ぶ。

 2002年、ダニエル・カーネマンはこのプロスペクト理論によりノーベル経済学賞を受賞する。残念ながらトヴェルスキーは1996年に死去しており、生きていればカーネマンと一緒に受賞したといわれている。

 プロスペクト理論には2つの柱があるのだが、その1つが「同じ規模の利得と損失を比較すると、損失の方が重大に見える」という人間の特性を示したものだ。

 たとえば、Amazonから予期せず1万円分のクーポンコードをもらったとする。あなたはうれしいに違いない。

 それからずいぶん日にちが過ぎ、あなたは1万円分のクーポンコードがあることを思い出す。これで本を買うことに決めた。ところがである。いざ支払いをしようと思ったら、クーポンコードの使用期限が切れている! きっとあなたは大きなショックを受けるに違いない。

 いま掲げた事例は、前者が利得で後者が損失になる。それぞれの規模は1万円でまったく同じだ。ところが、同じ規模にもかかわらず、1万円分のクーポンコードを予期せず得たときの価値(満足度)と、予期せず失ったときの価値(不満足度)の絶対値に、かなりの差があるのが感覚的にわかると思う。通常、満足度の絶対値よりも不満足度の絶対値の方が断然大きいだろう。