チャン・キムとレネ・モボルニュは著作『ブルー・オーシャン戦略』(2013年、ダイヤモンド社)で、血みどろの競争が繰り広げられている市場のことを「レッド・オーシャン」と呼んだ。今回はゲーム理論を用いてレッド・オーシャンを分析するとともに、レッド・オーシャンから脱却するための着眼点について考えてみたい。

レッド・オーシャンが生まれる仕組み

 チャン・キムとレネ・モボルニュが提唱した「ブルー・オーシャン戦略」については、本連載の「第8回 イノベーションを自在に引き起こす魔法のツール『4つのアクション』」で若干ふれた。

 キムとモボルニュは、血みどろの競争が繰り広げられる市場を「レッド・オーシャン」と呼ぶ。そして、レッド・オーシャンで戦うのではなく、競争のない新たな市場を創造するよう戦略を転換すべきだと説いた。この全く新しい未知の市場をキムとモボルニュは「ブルー・オーシャン」と呼んだ。そのブルー・オーシャンを実現するための手法の1つが、本連載ですでに解説した「4つのアクション」にほかならない。

 では、そもそも血みどろの競争が繰り広げられる市場とはどのようなものを指すのか。実はゲーム理論を用いると、このレッド・オーシャンの状況をすっきりと把握できる。

 ここに家電メーカーのB社とP社がある。両社では同機能のテレビを製造している。新製品の投入にあたり両社には「価格据置」と「価格引き下げ」の戦略がある。両社がそれぞれ戦略を実行した場合の利益は次のように予想されている(図1)。

図1●B社とP社の利益予想
図1●B社とP社の利益予想
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 すでに利得表の見方はマスターしてもらっているはずだ。まず、B社の立場で考えてみよう。

 ライバルのP社が「価格据置」を採用した場合、B社が「価格据置」を取ると利益は「50」億円、「価格引き下げ」を取ると「60」億円の利益になる。明らかに「価格引き下げ」が有利だ。だから「60」を赤で強調した。

 次にP社が「価格引き下げ」を採用した場合である。これに対してB社が「価格据置」を取ると利益は「30」億円、「価格引き下げ」を取ると「40」億円の利益になる。もちろん「価格引き下げ」のほうが得だ。したがって「40」を赤で強調した。

 続いてP社の立場で考える。まず、B社が「価格据置」を採用したとする。この場合、P社が「価格据置」を取ると利益は「50」億円、「価格引き下げ」を取ると「60」億円の利益になる。「価格引き下げ」が有利だから「60」を緑で強調した。

 また、B社が「価格引き下げ」を取ったとする。これに対してP社が「価格据置」を取ると利益は「30」億円、「価格引き下げ」を取ると「40」億円の利益になる。「価格引き下げ」のほうが得だから「40」を緑で強調した。