ゲーム理論は、1928年に数学者ジョン・フォン・ノイマンが著した論文「室内ゲームの理論」に端を発し、著作『ゲーム理論と経済行動』により基礎が出来上がる。ここでは戦略的発想に欠かせないゲーム理論の基本中の基本について解説したい。

そもそもゲーム理論とは何なのか

 ジョン・フォン・ノイマン(図1)は、1903年にハンガリーで生まれた。幼少から神童と呼ばれ、ブダペスト大学、ベルリン大学、スイス連邦工科大学などで学び、1930年には米プリンストン大学の教壇に立つ。その後、プリンストン高等研究所、ランド研究所などで要職を歴任する。そして数学を筆頭に化学、量子学、コンピュータ学など多様な分野で活躍した。

図1●ジョン・フォン・ノイマン
図1●ジョン・フォン・ノイマン
(出典:Wikipedia)

 ノイマンがゲーム理論についてふれたのは、1928年に公表した論文「室内ゲームの理論」が最初で、これがゲーム理論の端緒になる。さらに1944年にはプリンストン大学経済学部教授オスカー・モルゲンシュテルンとの共著で『ゲームの理論と経済行動』(2009年、ちくま学芸文庫)を発表する。これによりゲーム理論の基礎理論が確立するに至る。

 ゲーム理論が指すゲームとは、複数の主体がそれぞれの意思決定によって影響を受ける状況のことを指す。これを「ゲーム的状況」と呼ぶ。そして、このゲーム的状況の中で、主体がどのように意思決定し行動するのかについて理論化したものがゲーム理論だ。

 ここで言うゲーム的状況で即座に頭に浮かぶのは、文字通りトランプや麻雀などのゲームだろう。もちろん、ゲーム的状況は遊びの中だけにあるのではない。

 商談中のセールスマンと顧客を考えてみよう。顧客は最大限の値引きを要求する一方で、セールスマンも利益を確保しながらなんとか折り合いをつけたいと考える。このようにセールスマンとその顧客は、それぞれの意思決定によって互いが影響を受ける。つまり2人はゲーム的状況にあるのにほかならない。

 いま示した身近な例からもわかるように、ゲーム理論が適用できる場面は、日常生活のあちこちに見出せる。議論や取引を有利に運びたい、上司や部下と良好な関係を維持したい、パートナー企業と協力関係を築きたい等々、ゲーム理論が対象にする範囲は非常に広く、私たちの一般生活にまで及んでいる。

 では、このようなゲーム的状況にある私たちは、一体どのように意思を決定して行動するのが得策なのか。仮に自分にとって有利となる原理原則が存在するのならば、それを利用しない手はない。