知っていて当たり前にもかかわらず、あまり使われていない発想法が世の中には多数ある。今回のシリーズではその中から選りすぐりのテクニックを紹介したい。最初はあの巨人ピーター・ドラッカーが提唱したイノベーションを発見する技術についてである。

ピーター・ドラッカーとイノベーション

 ピーター・ドラッカーは、第一次世界大戦前の1909年11月19日に、オーストリア=ハンガリー帝国の首都ウィーンで生まれた。この世を去ったのが2005年11月11日のことだから、ほぼ96年という長寿を全うしたことになる。

 ドラッカーの家系は代々、政府関係者や大学教授などを輩出し、ドラッカーの父親も帝国政府の外国貿易省長官の職に就いていた。そのため家庭は比較的裕福だった。

 ギムナジウムを卒業したドラッカーは、ハンブルクで貿易商社の見習いになるとともにハンブルク大学に入学する。その後、フランクフルト大学に転入し、新聞記者や大学助手、投資銀行員などの職に就いたあと、28歳の時についの棲家となるアメリカへ移住する。ドラッカーの名が世界にとどろくのは、このアメリカ移住以降の約70年間のことだ。

 中でも、「ドラッカーと言えばマネジメント。マネジメントと言えばドラッカー」と言うように、ドラッカーはマネジメントの分野で大きな功績を残した。ためにドラッカーは「マネジメントを発明した男」とさえ言われたほどだ。

 膨大な量の著作を残したドラッカーであるが、本稿のテーマであるアイデア発想に着目した作品があるわけではない。しかしながらドラッカーの著作のあちこちで、アイデア発想法に関連する言及を発見できる。中でも『<イノベーションと企業家精神』(1985年、ダイヤモンド社)は、何か新しい「ネタ」を探している人を大いに啓発する著作に違いない。

 書籍のタイトルにある「イノベーション」は、マネジメントと大変深い関係がある。そもそもドラッカーはマネジメントを「組織に成果を上げさせるもの」と定義した。組織にとっての成果とはドラッカー流に言うと「顧客の創造」ということになる。そして、組織における「顧客創造の機能=成果を上げる機能」はたった2つしかない、とドラッカーは言う。1つはマーケティング、そしてもう1つがイノベーションである。