ポジティブ心理学は、アメリカの心理学者マーティン・セリグマンの提唱で1998年に生まれた。誕生してまだ20年も経たない心理学の新しい潮流だ。ポジティブ心理学では、ポジティブ感情を持つことが創造力を高めるのに有効であることを科学的に証明した。以下、その詳細について解説したい。

ポジティブ心理学の基礎理論「拡張-形成理論」

 ポジティブ心理学以前の心理学は、心の病という暗い面にスポットを当てて、その治療に専念することを主流にした。しかしながら、心理学の使命は心の病の治癒のみにあるのではない。たとえば、日々の暮らしをより充実させること、健康な人がより健康になること、これらを支援するのも心理学の重要な使命である。

 このような観点から、人の心の病ではなく、健康な人がより素晴らしい生活を送れる方法や手段を科学的に追究するポジティブ心理学が、心理学の新たな潮流として誕生した。提唱したのは心理学者マーティン・セリグマンで、1998年のことだ。

 誕生してからまだ20年も経たないポジティブ心理学ながら、高い成果を着々と生み出している。その1つにポジティブ心理学者バーバラ・フレドリクソンが提唱した「拡張-形成理論」がある。いまやポジティブ心理学の基礎理論の1つになっているものだ。

 拡張-形成理論とは、ポジティブ感情が精神の働きを拡張し、利用できる資源や能力を形成するという考え方を指す。そして人はこの拡張と形成を繰り返すことで成長するとフレドリクソンは主張する。

 拡張-形成理論の基礎になるポジティブ感情とは、私たちが前向きな態度、建設的な態度でいるときに持つ感情のことだ。喜びや感謝、安らぎ、興味、希望、誇り、愉快、鼓舞、畏敬、愛、さらには楽しみや歓喜、恍惚感、希望、感動など、ポジティブ感情には多様な種類がある。

 フレドリクソンはいくつもの実験を通じて、ポジティブ感情が精神の働きを拡張し、人が持つ資源の形成に役立つことを明らかにした。ここではその中から、バーバラ・フレドリクソンが著作『ポジティブな人だけがうまくいく3:1の法則』(2010年、日本実業出版社)で紹介している実験を示す。

図1●フレドリクソンの実験
図1●フレドリクソンの実験
出典:バーバラ・フレドリクソン『ポジティブな人だけがうまくいく3:1の法則』(2010年、日本実業出版社)を基に作成
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 図1の上図のように四角形のパネルが3枚あり、このパネルが正三角形の形状になるよう配置されている。一方これとは別に図1の下図のように2つの形状を用意する。1つは正三角形のパネル3枚で作った正三角形の形状、もう1つは四角形のパネル4枚で作った正方形の形状だ。便宜上、前者を形状A、後者を形状Bとしよう。

 では、最初に掲げた四角形のパネル3枚で作った正三角形の形状は、形状Aか、それとも形状Bか、いずれに似ているか。