思考には垂直思考と水平思考がある。垂直思考は1つの方向に向けて最善の策を考える態度なのに対して、水平思考は進む方向自体をいくつも考える態度を指す。行き詰まったら思考モードを垂直思考から水平思考に切り替えることが欠かせない。

水平思考──ラテラル・シンキングとは何か

 創造性開発の権威として著名な人物にエドワード・デ・ボノ(Edward de Bono:1933〜)がいる。デ・ボノはマルタ共和国生まれで、情報処理の心理学的研究に従事し、革新的かつ創造的な思考手法を数々提案してきた。その中でも、デ・ボノが、思考には垂直思考(バーティカル・シンキング)と水平思考(ラテラル・シンキング)の2種類があるとした主張はつとに有名だ。

 垂直思考とは私たちが一般的に用いる思考法で、ある一定の方向を決めたら、その方向に向かって物事を分析的に検討し、常に正しい答えを選択しようとする態度を指す。

 一方、水平思考とは、垂直思考のように1つの方向に進むのではなく、進む方向自体を多数発見することを目指す思考態度を指す。特に発想が行き詰まった際、言い換えると特定の進行方向で壁にぶち当たった際、水平思考は大きな威力を発揮する。ここではデ・ボノが掲げたパズルを用いてその具体例を紹介したい(図1)。

図1●デ・ボノのパズル
図1●デ・ボノのパズル
(出典:Edward de Bono『Lateral Thinking』(1990、Harper & Row)を基に作成)
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 ここにパズルのピースが2枚ある(1)。これで四角形を作らなければならない。向きを変えて並べれば四角形が出来上がるだろう(2)。次に、もう1枚別のピースが与えられた(3)。ここでは、既存の四角形に新たなピースを組み合わせて、新しい四角形を作成できる(4)。

 その後さらに新たなピースが与えられる(5)。しかし、新たに与えられたピースを既存の形に組み込んで四角形を作るのは困難だ。さて、どうすべきか。

 このパズルのポイントは、最初に決めた方針、そして新たに加わったピースにある。

 私たちを取り巻く環境は常に変化している。そして私たちはその変化に適切に対応しなければならない。(1)から(2)に至る四角形は、無秩序から秩序を形成した状態、すなわち環境に適応した安定状態と読み取れるだろう。

 ところが一度この安定した状態を確立すると、一般に私たちはこれを維持しようとする。つまりこれは、既存の方針に従って物事を処理する垂直思考的な態度にほかならない。

 一方、(3)で新たにピースが登場したわけだが、これは私たちを取り巻く環境が変化した象徴だと考えられる。もっとも、(3)のピースは既存の方針で適切に対応できたため(4)になった。つまり、最初に決めた方針に従いつつ新たな情報を吸収し、安定的状態を維持できたわけだ。垂直思考が首尾良く機能したのである。現実社会で考えると、組織が既存の方針を守りながら、新たな情報を上手に取り込んで安定を維持する様を象徴していると言える。