この連載では、仕事に勝てる「ビジネス文章力」をテーマにしている。良いビジネス文章を書きたいなら、単に礼儀作法を知っているだけではダメである。ビジネススキルを向上させること、これが良いビジネス文章を書くための条件である。

 筆者は、「文章は忠実に人の能力を写す鏡」だと考えている。文章の不備は書いた人間の不備、文章がダメなら書いた人間の能力もダメ。文章が悪いのではない、人間が悪いということだ。

 当文章治療室では、筆者がこれまで実務現場で経験してきたケースを使い、さまざまな文章力不足を「病」にたとえ、治療というコンセプトで、スキルアップの具体的方法について紹介する。

 今回は「上位職宛説明力欠乏症」の治療である。仕事ではシステムトラブルや取引先の失態など多くの不具合が発生する。これら不具合を上司、上長などの上位職に説明し、指示を受けながら解決する必要があるが、これができない人が多い。

 実は不具合を上位職に説明する場合は、何をポイントに説明するかが重要になる。これができる人とそうでない人には、長いビジネス人生で評価に大きな違いがでてしまうのだ。今日の患者さんも、何が重要なのかを分かっていない人だった。

神谷直子氏(仮名 35歳 女性 課長補佐)の症例

 神谷氏は、関東地方に本社がある中堅化粧品メーカーC社の情報システム部に勤務するIT企画担当の課長補佐である。入社時はプログラマを担当、その後システム設計、プロジェクトマネージャーを経て現在の担当となった。

 東京の私立大学で経営情報学を専攻し、化粧品メーカーに絞って就活を行った。将来は化粧品業界をITを駆使して引っ張っていきたい、化粧品業界を変えたい、ITで経営改善したい、そういう思いでC社に入社したのだった。

 入社してからは「勝ち気」「負けず嫌い」「勉強家」という性格で、他人よりも多くの時間を仕事に充ててきた。時間外も仕事、休日も仕事という具合に、仕事中心に社会人生活を送ってきたので、上司や上長からの受けは良かった。

 このため、35歳になった春の人事異動で、神谷氏は課長補佐に昇格した。C社の課長補佐は副課長の位置づけで、部長とのやりとりが増えるだけでなく、担当役員とのやりとりも多く発生する重要なポジションである。

 神谷氏はこの昇格をかなり喜んだ。同期入社で課長補佐になっているのは、まだ5人くらいしかいない。このポジションをうまくやりきれば、課長、次長、部長に昇進できる可能性が高くなる。そういう気持ちになったのだった。

 神谷氏はこの昇格を機に、よりITの勉強に熱心になった。ITの歴史、最新IT用語の理解、IT基礎技術の学習、IT系の国家資格の勉強、受験などに今まで以上に熱心になったのだ。