この連載では、仕事で勝てる「ビジネス文章力」をテーマにしている。今回は「具体策欠乏文章」の治療である。ITを活用したビジネス企画の仕事では自分の考えを上司や上長に説明し、理解してもらう必要がある。特に説明する内容が相手にとって新しいことを企画する場合は、なおさらである。

 このような「相手にとって新しい概念をともなう」企画の仕事で重要なのは、表面的な内容を語るのではなく、中身の濃い、具体的な内容を説明することが必要である。上司や上長などに自分の企画を納得してもらうには、内容が薄い、具体策が欠乏している文章ではダメなのだ。このような文章は上司の不満につながり、仕事の評価も低くなる。今日の患者さんも、そういう人だった。

大岳吾一(おおたけ ごいち 仮名 36歳 男性 課長補佐)の症例

 大岳氏の相談は、上司向けに説明している教育研修の企画文章に関することだった。大岳氏が言うには、「自分の考えた研修企画を上司が納得してくれない」、「自分の考えていることが薄っぺらいと上司に言われた」とのことだった。

 大岳氏は36歳で、九州地方の機械メーカーS社のシステム開発部の課長補佐としてプロジェクトマネジャーを担当している。大岳氏はS社に入社後、最初にシステム開発部に配属になり、プログラム開発とシステム設計を10年担当した。現在はプロジェクトマネジャーを担当しながら、部内の課題を検討する特命ミッションを受けている。最近部長に命じられたのは人材育成カリキュラムの見直しだった。

 現在、世界や日本の全国区のメーカーだけでなく、地方の製造業であるS社でも機器にセンサを付けて部品故障を早期に検知し警告を出すなど、IoT(インターネット・オブ・シングズ)やビッグデータを活用したビジネスに有効活用するような製品戦略が多くなっている。

 しかし、S社でそのようなIT企画が実施できるのはIT企画室の数人のコンサルタントスタッフだけに留まっており、S社の考えるICTを活用したビジネス展開には要員が不足している状況だった。

 そこでS社の経営層は、100人以上いるS社システム開発部の中堅エンジニアをIT企画人材として育成し、もっと多くのIT企画を行える体制を作ることを決定。システム開発部長にIT人材育成を命じ、担当になったのが大岳氏だった。

 大岳氏は雑誌や書籍を参考にしてIT企画人材研修制度を考え、システム開発部長に説明した。部長には「その方向で良い」と言われると思っていたが、その考えは甘かった。

 部長は終始無表情で聞いていたが、説明が終わると厳しい口調で「内容が薄い、中身がない、薄っぺらいし、具体的でない。これでIT企画人材が育つとは思えない」と言った。大岳氏は、これは相当ショックだったらしい。

 「どのような資料で説明すれば部長が納得するのかが分からない。部長に認められたい。自分に必要な文章治療をしてほしい」。大岳氏が文章治療室に来られたのは、こういう経緯だった。