この連載では、仕事に勝てる「ビジネス文章力」をテーマにしている。良いビジネス文章を書きたいなら、単に礼儀作法を知っているだけでは不十分だ。ビジネススキルを向上させること、これが良いビジネス文章を書くための必要条件である。

 筆者は、「文章は忠実に人の能力を写す鏡」だと考えている。文章の不備は書いた人間の不備、文章がダメなら書いた人間の能力もダメ。文章が悪いのではない、人間が悪いということだ。

 当文章治療室では、筆者がこれまで実務現場で経験してきたケースを使い、さまざまな文章力不足を「病」にたとえ、治療というコンセプトで、スキルアップの具体的方法について紹介する。

 今回は「課題解決力欠乏症」の治療である。仕事では多くの課題に直面する。これら課題を適切に認識し、真の課題は何かを探究し、解決する必要がある。しかし、表面的なことを真の課題だと誤認し、本当の解決ができないことが多い。

 実は、課題解決で最も難しいのは真の課題を見つけることである。これができる人とそうでない人には、長いビジネス人生で大きな差がついてしまう。今日の患者さんも、これができない人だった。

葛西氏(37歳 男性係長)の症例

 葛西氏は、中国地方の中堅地銀B行のIT企画部に勤務する企画担当の係長である。入行後にシステム開発部でシステムエンジニアを担当し、その後プロジェクトマネジャー業務を経て、現在の企画担当になった。

 地元の国立大学の理工学部でコンピュータサイエンスを専攻し、卒業後の進路は子供の頃からなじみのあったB行に入行したのだった。大学時代は軟式野球部に所属してまじめに活動し、コンピュータサイエンスの勉強もした。

 入行してからは「真面目」「勉強家」「研究好き」「コンピュータ好き」という要素が、銀行の雰囲気と合致していたようで、上司、上長とも特に衝突する場面もなく、順調に仕事をしてきた。

 あるとき、葛西氏は上司であるIT企画部長に呼ばれ、新しい仕事を命じられた。これは、金融機関のサービスをIT技術を使って高度化するというもので、いわゆるフィンテックと呼ばれる分野をB行の経営にどう活かすかという企画である。

 フィンテックとは、金融(Finance)と技術(Technology)からなる造語である。B行の経営陣は最近日本でもフィンテックが話題になっていることを知り、これを経営にどう活かせばよいかを検討する必要があると考えていた。

 発端はB行の頭取であった。地銀の集まりに参加した際、他の地銀が何行か真剣にFinTechを研究をしていることを知り、経営会議席上で「当行も検討、導入が必要ではないのか」と発言したこと。これが、今回の引き金になったのだ。

 葛西氏は、この検討のリーダーになった。これまでシステム設計リーダー、プロジェクトリーダー、行内システムの改善企画の経験はあったが、今回のように新規の企画を立案して実現させた経験はなかった。